サッカーの試合を見ていると、プレーが止まり、選手がボールを地面に置いて蹴る場面を何度も目にしますよね。このプレーが「プレースキック」です。なんとなく知っているけれど、フリーキックやコーナーキックなど、種類が多くて違いがよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。
プレースキックは、ファウルがあったときやボールがフィールドの外に出たときなど、試合が一時的に中断した状態からプレーを再開するために行われます。 この一瞬の静寂から放たれるキックが、時として試合の流れを大きく変え、劇的なゴールを生み出すことも少なくありません。この記事では、サッカー観戦がもっと楽しくなるように、「プレースキックとは何か?」という基本から、その種類ごとの細かいルール、さらには勝敗を分ける重要な戦術まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
プレースキックとは?試合の流れが止まった状態から始まるプレー
まずは「プレースキック」という言葉の基本的な意味や、似たような言葉との違い、そしてなぜこのプレーがサッカーにおいて非常に重要なのかを見ていきましょう。
プレースキックの基本的な定義
プレースキックとは、その名の通り「プレース(Place=置く)」したボールを蹴るプレーのことです。 サッカーでは、何らかの理由で試合が停止した際に、地面に静止させたボールを蹴ってプレーを再開することを総称して「プレースキック」と呼びます。
- ボールは完全に静止していなければならない。
- キッカーは一度ボールに触れた後、他の選手が触れるまで再びボールに触れてはいけない。
- 相手チームの選手は、プレーが再開されるまで規定の距離(多くは9.15m)を保たなければならない。
このように、流れの中で動いているボールを蹴るのとは違い、静止したボールを意図した場所に蹴ることができるのが最大の特徴です。 そのため、キッカーの技術や精度が非常に重要になります。
「セットプレー」とはどう違うの?
サッカー中継を見ていると、「セットプレー」という言葉もよく耳にしますよね。「プレースキック」と「セットプレー」は、しばしば同じような意味で使われますが、厳密には少しニュアンスが異なります。
- プレースキック: 地面に置いたボールを蹴るプレー全般(キックオフ、フリーキック、コーナーキックなど)を指す技術的な用語です。
- セットプレー: プレースキックを含む、プレーが止まった状態から再開される一連のプレーや戦術のことを指します。日本では特に、フリーキックやコーナーキックなど、得点チャンスに直結する場面で使われることが多い言葉です。
簡単に言うと、「プレースキック」が「ボールを置いて蹴る」という行為そのものを指すのに対し、「セットプレー」はそこから繰り広げられる戦術的な攻防全体を指す、と考えると分かりやすいでしょう。この記事では、読者の皆さんがイメージしやすいように、両方の言葉を使いながら解説していきます。
なぜプレースキックは重要なのか?
現代サッカーにおいて、プレースキックの重要性はますます高まっています。 守備戦術が高度に進化したことで、流れの中(オープンプレー)からゴールを奪うのが難しくなっているためです。
プレースキックは、守備が固められていても、一発で状況を打開できる可能性を秘めています。 例えば、ゴール前の絶好の位置でフリーキックを得れば、それだけで大きな得点のチャンスになります。 また、コーナーキックも、ゴール前に多くの選手が集まり、ヘディングシュートなどで得点を狙える絶好の機会です。
チームに優れたプレースキッカーがいるかどうかは、試合の勝敗を大きく左右する要素の一つです。 劣勢の試合でも、たった一度のセットプレーから同点に追いついたり、逆転したりするシーンは、サッカーの大きな見どころの一つと言えるでしょう。
【種類別】プレースキックのルールと特徴を徹底解説
プレースキックにはいくつかの種類があり、それぞれ再開される状況やルールが異なります。 ここでは、代表的な5つのプレースキックについて、その特徴を詳しく見ていきましょう。
キックオフ:試合の始まりを告げる合図
キックオフは、試合の前半と後半の開始時、そしてどちらかのチームが得点した後に試合を再開するために行われるプレースキックです。
- いつ行われる?: 前半・後半の開始時、得点が入った後の試合再開時。
- どこから?: フィールド中央の「センターマーク」にボールを置いて行います。
- ルール: キックオフの際、相手チームの選手はセンターサークルの中に入れません。キッカーが蹴ったボールが前に進んだ瞬間にプレー再開となります。
以前は必ずボールを前に蹴り出す必要がありましたが、ルール改正により、現在ではどの方向に蹴っても良くなりました。そのため、いきなり自陣のディフェンダーにパスを下げて、落ち着いて攻撃を組み立てるチームが増えています。
フリーキック:反則があった地点からのリスタート
フリーキックは、相手チームのファウル(反則)があった場合に、その地点から与えられるプレースキックです。 これは得点に直結する可能性が非常に高く、試合の重要な局面でよく見られます。
- いつ行われる?: 相手チームがファウルを犯した時。
- どこから?: 原則として、ファウルが起きた場所から行われます。
- ルール: 相手選手は、ボールから9.15m離れなければなりません。守備側は、ゴールを守るために選手を並べて「壁」を作ることがあります。
フリーキックには、直接ゴールを狙える「直接フリーキック」と、一度他の選手がボールに触れないとゴールが認められない「間接フリーキック」の2種類があり、ファウルの内容によって区別されます。 これについては、後の章でさらに詳しく解説します。
コーナーキック:ゴールラインを割った後の大きなチャンス
コーナーキックは、守備側の選手が最後に触ったボールが、自陣のゴールラインを割って外に出た場合に、攻撃側に与えられるプレースキックです。
- いつ行われる?: 守備側の選手が最後に触れたボールが、そのチームのゴールラインから外に出た時。
- どこから?: ボールが出た側のコーナーエリア(フィールドの角にある扇形のエリア)から行います。
- ルール: ボールをコーナーエリアの中に静止させて蹴ります。フリーキック同様、相手選手はボールから9.15m離れなければなりません。
ゴール前に向かって精度の高いボールが送り込まれるため、ヘディングシュートなどによる得点のチャンスが非常に大きいプレーです。 身長が高い選手をゴール前に集め、多彩な戦術が繰り広げられます。
ペナルティキック:ゴールキーパーとの1対1の攻防
ペナルティキック(PK)は、守備側の選手が自陣のペナルティエリア内で、直接フリーキックに相当するファウルを犯した場合に、攻撃側に与えられるプレースキックです。
- いつ行われる?: 守備側がペナルティエリア内で特定の反則を犯した時。
- どこから?: ゴールから11m(12ヤード)の距離にある「ペナルティマーク」から行います。
- ルール: キッカーとゴールキーパーの1対1で行われます。他の選手は、ボールが蹴られるまでペナルティエリアの外、かつボールより後方にいなければなりません。ゴールキーパーは、ボールが蹴られるまでゴールライン上に片足を残しておく必要があります。
得点が入る確率が非常に高く、攻撃側にとっては絶好のチャンスであり、守備側にとっては絶体絶命のピンチとなります。
ゴールキック:守備側からの安全なリスタート
ゴールキックは、攻撃側の選手が最後に触ったボールが、相手のゴールラインを割って外に出た場合に、守備側に与えられるプレースキックです。
- いつ行われる?: 攻撃側の選手が最後に触れたボールが、相手のゴールラインから外に出た時(シュートが外れた場合など)。
- どこから?: ゴールエリア(ゴール前の小さな四角いエリア)の中から行います。
- ルール: 以前は、蹴られたボールがペナルティエリアを出るまで他の選手は触れませんでしたが、ルール改正により、ペナルティエリア内でもパスを受けられるようになりました。相手選手は、ボールがインプレーになるまでペナルティエリアの外にいなければなりません。
このルール改正により、ゴールキーパーから近くのディフェンダーへ短いパスをつなぎ、自陣から丁寧に攻撃を組み立てる「ビルドアップ」という戦術が、より一層重要になっています。
フリーキックの奥深い世界!直接と間接の違いとは?
プレースキックの中でも特に戦術が複雑で、試合の行方を左右するのがフリーキックです。フリーキックには「直接」と「間接」の2種類があり、どちらになるかは、その原因となった反則の種類によって決まります。
直接フリーキック:直接ゴールを狙える強力な武器
直接フリーキックは、キッカーが蹴ったボールが、他の誰にも触れずにそのままゴールに入っても得点が認められるフリーキックです。 そのため、ゴールに近い位置で獲得すると、チームにとって非常に大きなチャンスとなります。
- 相手を蹴る、または蹴ろうとする行為
- 相手をつまずかせる、またはつまずかせようとする行為
- 相手に飛びかかる行為
- 相手をチャージする(肩などでぶつかる)行為
- 相手を打つ、または打とうとする行為
- 相手を押す行為
- 相手にタックルする行為
- 相手を押さえる行為
- 意図的にボールを手や腕で扱う(ハンド)
これらの反則は、相手選手への身体的な接触を伴うものや、意図的な不正行為など、比較的重いファウルと見なされるものが中心です。 テレビで見ていて「あ、今のファウルだ」と分かりやすいプレーの多くは、直接フリーキックに該当します。
間接フリーキック:味方へのパスが必須の戦術的なキック
間接フリーキックは、その名の通り、直接ゴールを狙うことができず、キッカーが蹴ったボールがゴールに入る前に、他の選手(味方・相手問わず)に触れる必要があるフリーキックです。 もし直接ゴールに入ってしまった場合は、得点とはならず、相手のゴールキックで試合が再開されます。
主審は、間接フリーキックであることを示すために、プレーが再開されるまで片手を真上に上げてシグナルを送ります。
- オフサイド
- ゴールキーパーが、ボールを手放してから他の選手が触れる前に、再び手でボールに触れる
- ゴールキーパーが、味方からのバックパスを手で扱う
- ゴールキーパーが、ボールを6秒を超えて手で保持する
- 危険な方法でプレーする(例:相手の近くで足を高く上げるなど)
これらは、身体的な接触を伴わない技術的な反則や、危険なプレーに対して与えられることが多いのが特徴です。 ペナルティエリア内で守備側が間接フリーキックの反則を犯した場合でも、ペナルティキックにはならず、その場所から間接フリーキックが行われます。
ファウルの種類によってどう決まる?
このように、フリーキックが直接になるか間接になるかは、反則の「悪質性」や「危険度」によって大まかに分けられています。
直接フリーキック | 間接フリーキック | |
---|---|---|
特徴 | 直接ゴールを狙える | 他の選手に触れてからでないとゴールにならない |
主な反則 | 相手選手への身体的接触を伴うファウル、ハンドなど | オフサイド、ゴールキーパーに関する技術的な反則、危険なプレーなど |
審判の合図 | 特になし(腕で方向を指し示す) | 片手をまっすぐ上に上げる |
審判がどちらのフリーキックを指示しているかを見分けることで、これから何が起ころうとしているのかを予測でき、サッカー観戦がより一層深みを増すはずです。
プレースキックにおける重要な戦術
プレースキックは、プレーが止まっているため、チーム全体で戦術を確認し、実行する絶好の機会です。ここでは、攻撃側と守備側に分かれて、代表的な戦術を見ていきましょう。
攻撃側の戦術:多彩なサインプレー
攻撃側は、プレースキックの機会を最大限に活かすため、様々なサインプレーを用意しています。特にコーナーキックやゴール前のフリーキックでは、事前に練習してきた多彩な戦術が繰り広げられます。
- ニアサイド・ファーサイドへのボール: コーナーキックの際、ゴールキーパーに近い側の「ニアサイド」を狙うのか、遠い側の「ファーサイド」を狙うのかは基本的な戦術です。 ニアサイドに速いボールを蹴って誰かが合わせる、ファーサイドにふわりとしたボールを蹴って身長の高い選手に競らせるなど、ボールの質やターゲットを変えることで相手を惑わせます。
- ショートコーナー: 相手の意表を突く戦術として「ショートコーナー」があります。これは、コーナーからいきなりゴール前にボールを蹴り込むのではなく、近くにいる味方に短いパスを出すプレーです。 相手の守備陣形を崩し、角度を変えてからクロスボールを上げたり、ドリブルで仕掛けたりすることができます。
- トリックプレー: フリーキックでは、複数の選手がボールの周りに立ち、誰が蹴るのか、あるいはパスを選択するのかを相手に読ませないようにします。一人が蹴るふりをしてまたぎ、もう一人がシュートを打つなど、相手の壁やゴールキーパーのタイミングをずらすための工夫が凝らされます。
守備側の戦術:強固な「壁」の作り方
フリーキックにおいて、守備側の最も重要な戦術は「壁」を作ることです。壁は、キッカーが直接ゴールを狙えるコースを物理的に塞ぎ、シュートを打てる範囲を限定させることを目的としています。
- 壁の人数と位置: 壁の人数は、フリーキックの位置や角度によって変わります。ゴールから遠ければ人数は少なく、近ければ多くなります。壁の位置は、ゴールキーパーが指示を出し、シュートコースを限定させやすい場所に作られます。
- 壁の役割: 壁を構成する選手は、ボールが蹴られる瞬間にジャンプして、上を越えるシュートを防ごうとします。一方で、近年では壁の下を抜くグラウンダーのシュートも増えているため、一人の選手が壁の後ろに寝転がってそのコースを防ぐ「寝る壁」といった戦術も見られます。
- マンマークとゾーンディフェンス: コーナーキックなどの守備では、特定の相手選手を1対1でマークする「マンマーク」と、各自が決められたエリアを守る「ゾーンディフェンス」があります。どちらの戦術を採るか、あるいは両方を組み合わせるかは、チームの戦術や相手の特徴によって異なります。
キッカーの役割とボールの蹴り方
プレースキックの成否は、キッカーの技術に大きく依存します。優れたキッカーは、様々な球種のボールを蹴り分けることができます。
- カーブ: ボールに回転をかけ、弧を描くように曲げるキックです。相手の壁を避けてゴールを狙う際によく使われます。
- 無回転シュート: ボールを無回転で蹴ることで、空気抵抗によって不規則な変化を生み出すキックです。ゴールキーパーにとっては予測が非常に難しく、強力な武器となります。
- インスイングとアウトスイング: コーナーキックでは、利き足によってボールの曲がる方向が変わります。ゴールに向かって曲がっていくのが「インスイング」、ゴールから遠ざかるように曲がっていくのが「アウトスイング」です。どちらもゴールキーパーの対応を難しくさせる効果があります。
これらの戦術的な駆け引きに注目すると、プレースキックの場面がより一層エキサイティングに見えるでしょう。
プレースキックで振り返る!歴史に残る名手と名場面
サッカーの歴史は、数々のプレースキックの名手たちによって彩られてきました。彼らが放った一本のキックが、チームを勝利に導き、観る者の記憶に深く刻まれています。
伝説のフリーキックマスターたち
世界には「フリーキックの魔術師」と称された選手が数多く存在します。
- ジュニーニョ・ペルナンブカーノ(ブラジル): 彼のフリーキックは伝説的で、特に予測不能な軌道を描く「無回転フリーキック」の元祖として知られています。 どのような距離からでもゴールを狙えるその技術は、多くの後進キッカーに影響を与えました。
- デイビッド・ベッカム(イングランド): 右足から放たれる正確無比で美しいカーブを描くキックは、彼の代名詞でした。ここぞという場面で何度もチームを救う劇的なゴールを決めています。
- 中村俊輔(日本): 日本が世界に誇る左足のファンタジスタです。 特に、UEFAチャンピオンズリーグでマンチェスター・ユナイテッド相手に決めた2本のフリーキックは、今なお語り継がれる伝説的なゴールとして知られています。
- ホセ・ルイス・チラベルト(パラグアイ): ゴールキーパーでありながら、PKだけでなくフリーキックのキッカーも務めた異色の存在です。 代表戦でもゴールを決めるなど、その強力なキックで名を馳せました。
記憶に残る劇的なプレースキックのゴールシーン
サッカーの歴史を語る上で欠かせない、プレースキックから生まれた劇的なゴールも数多くあります。
- ロベルト・カルロス(ブラジル): 1997年のフランス戦で見せたフリーキックは「悪魔のカーブ」として知られています。ゴールのはるか外側に向かって飛んでいったボールが、物理法則を無視するかのように急激に曲がり、ゴールに吸い込まれました。
- アンドレア・ピルロ(イタリア): 落ちる軌道を描く彼のフリーキックは「ブレードボール」と呼ばれました。壁の上を越えたかと思うと、急激に落下してゴールネットを揺らすその軌道は、多くのゴールキーパーを無力化しました。
現代サッカーにおけるプレースキックの名手
現代サッカーでも、その技術で観客を魅了するプレースキックの名手たちが活躍しています。
- リオネル・メッシ(アルゼンチン): 正確無比な左足で、壁の上を越す美しい軌道のフリーキックを得意としています。キャリアを通じて数多くの直接フリーキックを決めており、歴代最高の選手の一人と評価される所以の一つです。
- クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル): 強烈なパワーと独特のフォームから放たれる「無回転シュート」が武器です。全盛期には、その予測不能なシュートで数々のゴールを量産しました。
近年、サッカーの戦術が高速化・高強度化する中で、純粋なプレースキックの名手は減少傾向にあるという指摘もあります。 しかし、それでもなお、一本のキックで試合を決められる選手の価値は、これからも変わることはないでしょう。
まとめ:プレースキックとはサッカーの魅力を凝縮したプレー
この記事では、サッカーにおける「プレースキック」について、その基本的な意味から種類、ルール、そして戦術に至るまで、幅広く解説してきました。
プレースキックとは、単なる試合再開の方法ではありません。それは、静寂の中でキッカーの技術とチームの戦術が交差し、一瞬にして試合の均衡を破る可能性を秘めた、サッカーの醍醐味が凝縮されたプレーです。
- プレースキックの基本: 試合が止まった状態から、地面に置いたボールを蹴って再開するプレーの総称。
- 主な種類: キックオフ、フリーキック、コーナーキック、ペナルティキック、ゴールキックの5つ。
- フリーキックの違い: 相手への接触などを伴う重い反則には「直接フリーキック」、オフサイドなど技術的反則には「間接フリーキック」が与えられる。
- 重要性: 攻撃側にとっては大きな得点チャンスであり、守備側にとっては緻密な戦術が求められる、試合の勝敗を左右する重要な局面。
次にサッカーを観戦する機会があれば、ぜひプレースキックの場面に注目してみてください。キッカーはどんなボールを蹴るのか、攻撃側や守備側はどんな駆け引きをしているのか。その背景にあるルールや戦術を知ることで、これまで以上にサッカーの奥深さを感じ、観戦を何倍も楽しむことができるはずです。
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