プレミアリーグにイングランド以外のチーム?ウェールズのクラブが参加する理由を徹底解説

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世界最高峰のサッカーリーグとして、日本でも絶大な人気を誇るイングランドのプレミアリーグ。アーセナル、リヴァプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドといったビッグクラブがしのぎを削るこのリーグは、その名の通り「イングランド」のリーグです。

しかし、過去にはイングランド以外の地域のチームがプレミアリーグで戦っていたことをご存知でしょうか。具体的には、イギリスを構成する国の一つである「ウェールズ」のクラブチームがプレミアリーグに所属していた時期がありました。

なぜ、イングランドのリーグにウェールズのチームが参加できるのでしょうか。この記事では、そんな素朴な疑問に答えるべく、「プレミアリーグとイングランド以外のチーム」というテーマを深掘りしていきます。歴史的な背景から、参加するメリット・デメリット、そしてサッカーファンなら気になるであろう他の国の事例まで、わかりやすく解説していきます。

プレミアリーグにイングランド以外のチームは存在する?

「プレミアリーグ」は、その名称からイングランドのクラブのみで構成されていると思われがちですが、実は少し事情が異なります。ここでは、過去にプレミアリーグで戦ったイングランド以外のチームや、なぜ彼らが参加できるのかという基本的な部分から解説していきます。

過去にプレミアリーグに所属したウェールズのクラブ

2024-25シーズン現在、プレミアリーグに所属しているイングランド以外のチームはありません。

しかし、過去にはウェールズを本拠地とする2つのクラブがプレミアリーグの舞台で戦いました。それは、スウォンジー・シティAFCカーディフ・シティFCです。

スウォンジー・シティAFCは、2011年にウェールズのクラブとして初めてプレミアリーグへの昇格を果たしました。 昇格後も健闘し、7シーズンにわたってプレミアリーグに在籍しました。 特に2012-13シーズンには、フットボールリーグカップ(現在のカラバオ・カップ)で優勝し、ウェールズのクラブとして初のメジャータイトルを獲得するという快挙も成し遂げています。

一方、カーディフ・シティFCはスウォンジーの長年のライバルであり、2013-14シーズンと2018-19シーズンの2度にわたってプレミアリーグに昇格しました。 1927年にはFAカップで優勝した歴史を持つ古豪ですが、プレミアリーグでは残念ながらいずれも1シーズンで降格しています。

クラブ名 プレミアリーグ在籍シーズン 主な実績
スウォンジー・シティAFC 2011-12 ~ 2017-18 2012-13 リーグカップ優勝
カーディフ・シティFC 2013-14, 2018-19 1927 FAカップ優勝

なぜウェールズのチームが参加できるのか?

サッカーの世界では、国や地域ごとにサッカー協会が存在し、それぞれが独自のリーグを運営するのが一般的です。例えば、スペインにはラ・リーガ、ドイツにはブンデスリーガがあります。そして、FIFA(国際サッカー連盟)やUEFA(欧州サッカー連盟)といった国際組織は、基本的に1つの国に1つの協会・リーグという形を原則としています。

ではなぜ、ウェールズのクラブがイングランドのリーグに参加できるのでしょうか。その答えは、歴史的な経緯にあります。
イングランドのサッカーリーグは世界で最も古い歴史を持ち、1888年に創設されました。 一方、ウェールズで全国規模のプロリーグ(現在のカムリ・プレミア)が設立されたのは、それから100年以上も後の1992年のことでした。

それまでの間、ウェールズの有力なクラブは、よりレベルが高く、経済的にも魅力的な隣国イングランドのリーグシステムに組み込まれて活動するのが自然な流れだったのです。 つまり、ウェールズに独自のプロリーグが誕生するずっと前から、スウォンジーやカーディフといったクラブはイングランドのサッカー協会(FA)の管轄下で戦ってきたという歴史があるのです。

現在はどのリーグに所属している?

2024-25シーズン現在、プレミアリーグにこの2チームの姿はありません。両チームともに、プレミアリーグの一つ下のカテゴリーである「EFLチャンピオンシップ(実質2部リーグ)」に所属しています。

イングランドのサッカーは「ピラミッド」と呼ばれる階層構造になっており、プレミアリーグを頂点に、下部リーグとの間で毎シーズン昇格・降格が行われます。 そのため、スウォンジーとカーディフも、チャンピオンシップで好成績を収めれば、再びプレミアリーグに昇格する可能性は十分にあります。彼らの挑戦は今も続いており、再び「ウェールズダービー」がプレミアリーグの舞台で行われる日を多くのファンが待ち望んでいます。

ウェールズのクラブがイングランドリーグにいる歴史的背景

前述の通り、ウェールズのクラブがイングランドのリーグに参加しているのは、単なる特例ではなく、100年以上にわたる深い歴史的背景に基づいています。ここでは、その歴史をもう少し詳しく見ていきましょう。

ウェールズ独自の全国リーグがなかった時代

サッカーの母国イングランドでは、19世紀後半にプロリーグが誕生し、急速に発展していきました。 しかし、隣国のウェールズでは、当時ラグビーが最も人気のあるスポーツであり、サッカーの全国規模のリーグを組織する動きは遅れていました。

ウェールズのサッカー協会(FAW)自体は、イングランド、スコットランドに次いで世界で3番目に古い歴史を持っていますが、長らく国内カップ戦(ウェルシュカップ)の運営が主な活動でした。
地理的にイングランドに近く、交通の便も良かったカーディフやスウォンジー、そして北部のレクサムといったクラブは、国内に目標となる高いレベルのリーグが存在しなかったため、自然とイングランドのリーグへの参加を目指すことになりました。 これは、クラブの成長と発展のために非常に合理的な選択だったと言えるでしょう。

FA(イングランドサッカー協会)との関係

ウェールズのクラブがイングランドのリーグに参加するためには、当然ながらイングランドサッカー協会(FA)の承認が必要です。FAは、歴史的にウェールズの特定のクラブを自国のリーグシステムに受け入れてきました。

これは、両国のサッカー界が密接な関係を築いてきた証でもあります。前述の通り、ウェールズにプロリーグがなかった時代、才能あるウェールズの選手たちにとっても、イングランドのリーグは自らの力を試す最高の舞台でした。こうした選手の受け入れも含め、FAとウェールズサッカー協会は長年にわたり協力関係を維持してきました。

1992年にウェールズ・プレミアリーグが創設された際、FAWはイングランドのリーグに所属していたウェールズのクラブに対し、自国の新リーグへの参加を求めました。しかし、すでにイングランドのシステムに深く根付いていたカーディフ、スウォンジー、レクサムなどのクラブは、イングランドのリーグに留まることを選択しました。この決定は当時、議論を呼びましたが、最終的にはクラブの意思が尊重される形となりました。

イングランドのリーグピラミッドへの組み込み

イングランドのサッカーリーグは、プレミアリーグを頂点とする巨大なピラミッド構造で成り立っています。 プロが所属するトップ4部(プレミアリーグ、チャンピオンシップ、リーグ1、リーグ2)から、下にはセミプロやアマチュアのリーグが何層にもわたって存在し、各リーグ間での昇格・降格が活発に行われています。

スウォンジーやカーディフといったクラブは、このピラミッドの正式な構成員として認められています。彼らは、イングランドのクラブと全く同じ条件でリーグ戦を戦い、FAカップやリーグカップといった国内カップ戦にも参加します。

豆知識:FAカップでの快挙
カーディフ・シティは1927年にFAカップで優勝しています。これは、現在に至るまでイングランド以外のクラブがFAカップを制した唯一の例として、歴史に燦然と輝いています。

このように、ウェールズのクラブは単なる「ゲスト参加」ではなく、イングランドのサッカーシステムに不可欠な一部として組み込まれているのです。このユニークな関係性が、プレミアリーグの多様性と奥深さを象徴していると言えるでしょう。

プレミアリーグ参加のメリットと課題

ウェールズのクラブが、自国のリーグではなくイングランド最高峰のプレミアリーグを目指すのには、どのような理由があるのでしょうか。そこには大きなメリットが存在する一方で、特有の課題も抱えています。

チーム側(ウェールズのクラブ)のメリット

最大のメリットは、経済的な恩恵です。プレミアリーグは、世界で最も商業的に成功しているサッカーリーグであり、その放映権料は莫大な金額に上ります。プレミアリーグに昇格すれば、たとえ1シーズンで降格したとしても、下部リーグとは比較にならないほどの収入を得ることができます。この資金は、選手の補強や施設の改善に充てられ、クラブの成長を大きく後押しします。

また、競技レベルの向上も計り知れないメリットです。世界トップクラスの選手や監督が集まるプレミアリーグで日常的にプレーすることは、選手たちの成長を促し、チーム全体のレベルを引き上げます。これにより、クラブの国際的な知名度も飛躍的に高まります。スウォンジーがリーグカップを制覇できたのも、プレミアリーグという厳しい環境で揉まれた成果と言えるでしょう。

チーム側のデメリットや課題

一方で、デメリットや課題も存在します。まず、熾烈な競争環境が挙げられます。豊富な資金力を持つクラブがひしめくプレミアリーグで、予算規模で劣るウェールズのクラブが生き残るのは容易ではありません。カーディフが2度とも1年で降格したように、昇格と降格を繰り返す「エレベータークラブ」になりやすいという現実があります。

また、アイデンティティの問題も指摘されることがあります。イングランドのリーグで戦うことで、「ウェールズのクラブ」としての独自性が薄れるのではないかという懸念です。国内カップ戦であるウェルシュカップには、1995年以降、イングランドリーグに参加する上位クラブは出場できなくなりました。 これにより、国内タイトルを獲得する機会が失われたという側面もあります。

プレミアリーグ側の視点

プレミアリーグ側にとっても、ウェールズのクラブが参加することにはメリットがあります。それは、リーグの多様性と魅力の向上です。
スウォンジーとカーディフによる「南ウェールズダービー」は、100年以上の歴史を持つ非常に激しいライバル関係で知られ、プレミアリーグで開催された際には大きな注目を集めました。 このような熱狂的なダービーマッチは、リーグに新たなストーリーと興奮をもたらします。

さらに、イギリス国内の異なる文化を持つクラブが参加することで、リーグのファン層がウェールズにも広がり、商業的な価値を高めることにも繋がります。国際的に見ても、「イングランドのリーグ」という枠を超えた、より広い「ブリティッシュ(英国の)」な魅力を持つリーグとしてアピールできるのです。

イングランド以外のチームに関するよくある質問

プレミアリーグとウェールズのクラブの関係を知ると、さらにいくつかの疑問が湧いてくるかもしれません。ここでは、サッカーファンが抱きがちな質問にQ&A形式で答えていきます。

スコットランドのチームは参加できないの?

「ウェールズのクラブが参加できるなら、スコットランドの強豪、セルティックレンジャーズもプレミアリーグに参加すれば面白いのでは?」と考えたことのあるサッカーファンは多いでしょう。実際にこのアイデアは、過去に何度もメディアで取り上げられてきました。

セルティックとレンジャーズはスコットランドリーグで圧倒的な強さを誇り、常に優勝を争っています。 そのため、より競争が激しく、経済的にも魅力的なプレミアリーグへの「移籍」を望む声が両クラブのファンから上がるのは自然なことです。プレミアリーグ側にとっても、世界中にファンを持つこの2クラブが加われば、リーグの価値がさらに高まるというメリットが考えられます。

しかし、実現には非常に高いハードルがあります。
ウェールズのクラブとは異なり、セルティックとレンジャーズはスコットランドサッカー協会(SFA)の管轄下にあり、スコットランドのリーグシステムに深く根付いています。彼らがプレミアリーグに移籍するには、FA、SFA、さらにその上のUEFAやFIFAといった多くの組織の承認が必要となります。

また、プレミアリーグの既存クラブの多くが、自分たちの分配金が減る可能性があることや、昇格・降格の枠が圧迫されることを懸念して反対すると考えられています。さらに、この2強が去った後のスコットランドリーグが衰退してしまうという大きな問題もあり、実現の可能性は低いと言わざるを得ません。

他の国のリーグにも国外チームはいる?

はい、他のヨーロッパの主要リーグにも、国外のクラブが参加している例は存在します。最も有名なのは、フランスのリーグ・アンに所属するASモナコです。

モナコはフランス南東部に位置する独立国家「モナコ公国」のクラブです。 モナコには独自のプロリーグが存在しないため、歴史的にフランスサッカー連盟のリーグシステムに参加しています。ASモナコはリーグ・アンで何度も優勝経験のある強豪クラブであり、過去にはUEFAチャンピオンズリーグで準優勝した実績もあります。 南野拓実選手が所属していることでも知られていますね。

このように、小規模な国家のクラブが、地理的・歴史的な理由から隣接する大国のリーグに参加するケースは、ヨーロッパでは稀に見られます。ウェールズのクラブのケースも、こうした大きな枠組みの中で捉えることができます。

代表チームはどうなるの?

クラブがイングランドのリーグに所属しているからといって、選手の国籍が変わるわけではありません。代表チームは、選手の国籍(あるいはその選手が代表としてプレーする資格を持つ国)に基づいて選出されます。

例えば、カーディフ・シティにウェールズ国籍の選手がいれば、彼はウェールズ代表に選ばれる資格があります。同様に、イングランド国籍の選手がいればイングランド代表、日本人選手がいれば日本代表の候補となります。

実際に、スウォンジーやカーディフには多くのウェールズ代表選手が所属してきました。彼らは、クラブではイングランドのリーグで戦いながら、代表ウィークになればウェールズ代表として、時にはイングランド代表と対戦することもあります。クラブの所属リーグと、代表チームの国籍は、全く別の問題として切り離して考えられています。

まとめ:プレミアリーグとイングランド以外のチームの特別な関係

この記事では、「プレミアリーグとイングランド以外のチーム」というテーマについて、以下の点を中心に解説しました。

  • 過去にウェールズのクラブ(スウォンジー、カーディフ)がプレミアリーグに参加していたこと。
  • その理由は、ウェールズに全国リーグが設立される以前から、歴史的にイングランドのリーグシステムに組み込まれていたためであること。
  • プレミアリーグへの参加は、経済面や競技面で大きなメリットがある一方で、熾烈な競争などの課題も存在すること。
  • スコットランドのクラブの参加は、様々な障壁があり実現が難しいこと。
  • フランスのリーグ・アンにおけるASモナコのように、他の国でも同様の例が見られること。

プレミアリーグにおけるイングランド以外のチームの存在は、サッカーのリーグ編成が必ずしも国境と一致しない、興味深い事例の一つです。 それは、100年以上にわたる歴史的な経緯と、クラブの発展を願う人々の合理的な選択の結果なのです。次にプレミアリーグの試合を見るとき、こうした背景を知っていると、また少し違った視点でサッカーを楽しめるかもしれません。

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