サッカーの試合を見ていると、必ず目にするのが「キックオフ」です。試合の始まりを告げる重要なプレーですが、実はこのキックオフには、意外と知られていない細かいルールや、近年のルール改正によって大きく変わったポイントがたくさんあることをご存知でしょうか。
「なぜ最近の選手は後ろにボールを蹴るの?」「一人でキックオフしてもいいの?」「直接ゴールを決めたらどうなるの?」といった疑問を持つ方も多いかもしれません。実は、これらはすべてルールブックにしっかりと規定されており、時代とともにその戦術やスタイルも変化しているのです。
この記事では、サッカーのキックオフに関する基本的なルールから、知っておくと試合観戦がもっと楽しくなる豆知識、そして最新の戦術トレンドまでを、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。ルールを深く知ることで、試合開始のホイッスルが今まで以上にワクワクするものになるはずです。
サッカーのキックオフとは?基本ルールを徹底解説

サッカーの試合において、キックオフはプレーを開始、または再開するための唯一の方法です。何気なく見ているシーンかもしれませんが、そこには厳格なルールと手順が存在します。まずは、どのような状況でキックオフが行われるのか、選手たちはどこに立っていなければならないのかといった、基本中の基本から確認していきましょう。
キックオフが行われる4つのタイミングとは
キックオフは、試合中にいつでも自由に行えるものではありません。公式なサッカールール(競技規則)において、キックオフが行われるタイミングは明確に以下の4つと定められています。
1つ目は、もちろん「前半の開始時」です。試合のオープニングとして、スタジアムの緊張感が最高潮に達する瞬間でもあります。2つ目は「後半の開始時」です。ハーフタイムで一度リセットされた試合を再び動かすための合図となります。
3つ目は「得点が入った直後の再開時」です。どちらかのチームがゴールを決めると、決められた側のチームがボールをセンターマークにセットして、キックオフを行うことで試合が再開されます。得点が多い試合では、このシーンを何度も見ることになります。
そして4つ目が「延長戦の開始時」です。通常の90分で決着がつかず、延長戦が行われる場合、その前半と後半の開始時にもそれぞれキックオフが行われます。これらのタイミング以外、例えばファウルやボールが外に出た後の再開でキックオフが行われることはありません。
選手の位置と配置に関する厳格なルール
キックオフを行う際、選手たちがピッチ上のどこに立っているかは非常に重要です。ここには厳密なルールがあり、守られていないと審判はキックオフを認めません。
まず大原則として、「すべての選手は、自陣(自分たちのチームのハーフウェーラインより手前側)にいなければならない」という決まりがあります。攻撃側の選手であっても、ボールが蹴られる前に相手陣内に入ってはいけません。フライングして相手陣内に入ってしまうと、やり直しを命じられます。
次に、キックオフを行わない側(守備側)のチームには、さらに距離の制限があります。彼らは、ボールがインプレーになるまで、「センターサークル(ボールから9.15メートル離れた円)の外にいなければならない」のです。センターサークルの中に立っていいのは、キックオフを行うチームの選手だけです。
このルールがあるため、キックオフの瞬間、守備側の選手たちはセンターサークルのラインに沿って待ち構えるような配置になります。この距離が保たれることで、キックオフ直後にいきなりボールを奪われることなく、安全にプレーを開始できる権利が攻撃側に保障されているのです。
審判の合図とインプレーになる瞬間
選手たちが正しい位置につき、ボールがセンターマーク(ピッチのど真ん中の点)に静止していることを確認すると、主審は笛(ホイッスル)を吹いて開始の合図を出します。
しかし、笛が鳴っただけではまだ試合は始まっていません。ルール上、試合が動き出す(インプレーになる)のは、「ボールが蹴られて、明らかに動いた瞬間」と定義されています。以前のルールでは「ボールが前方に移動したとき」などの細かい規定がありましたが、現在は蹴られて動けば方向に関係なくインプレーとなります。
この「明らかに動いた」というのがポイントで、例えば足でボールの上を踏んだだけではインプレーとはみなされず、しっかりとキックされた動作が必要になります。インプレーになった瞬間から、時間を計測する時計が動き出し、相手選手もセンターサークルの中に入ってプレスをかけることが可能になります。この一瞬の静と動の切り替わりが、キックオフの醍醐味の一つと言えるでしょう。
観戦初心者でもわかるキックオフの流れ
ここまでの基本ルールを踏まえて、実際の試合でのキックオフの流れを整理してみましょう。初心者の方は、以下のステップに注目して見てみてください。
まず、ボールを持ったチームの選手が1人、または2人でセンターサークルの中央に行き、ボールをセットします。このとき、他のチームメイトは全員自陣に散らばり、相手チームはセンターサークルの外で待機します。主審が選手たちの配置に問題がないかを見渡し、準備が整ったと判断したら「ピーッ」と笛を吹きます。
笛の音を合図に、中央の選手がボールを蹴ります。現代サッカーでは、後方の味方にパスを出すことがほとんどです。ボールが動いた瞬間に試合開始となり、スタンドからは大きな歓声が上がります。これが一連の流れです。
もし、笛が鳴る前に緊張して蹴ってしまったり、味方選手が先に相手陣内に飛び出してしまったりした場合は、主審がすぐに笛を吹いて止め、やり直しをさせます。スムーズに試合が始まるかどうかは、選手たちのルール理解と冷静さにかかっているのです。
「後ろに蹴ってもOK」に!大きく変わったキックオフのルール改正

サッカー経験者の方や、久しぶりにサッカー観戦をした方の中には、「あれ? 今のキックオフ、前に蹴らなくていいの?」と驚いた経験があるかもしれません。実は2016年に行われたルール改正によって、キックオフの風景は劇的に変化しました。ここでは、その改正内容と影響について詳しく解説します。
2016年のルール改正で何が変わったのか
2016年以前のサッカールールでは、キックオフのボールは「前方に蹴り出さなければならない」と決められていました。「前方」とは相手陣内の方向を指します。そのため、ボールを少しだけ前にちょんと蹴り出し、それを味方が拾ってから後ろにパスをする、という手順が必要でした。
しかし、2016年の競技規則改正により、「ボールはどの方向に蹴ってもよい」と変更されました。これにより、最初からいきなり真後ろにいる味方へパスを出すことが認められるようになったのです。これはサッカーの歴史の中でも、見た目の印象を大きく変える非常に重要な変更点でした。
この改正の背景には、ルールの簡素化や、現代サッカーの実情に合わせるという意図がありました。実質的にほとんどのチームが一度後ろに下げてから攻撃を組み立てていたため、わざわざ前に蹴らせる制限をなくし、よりスムーズにプレーを開始できるようにしたのです。
「一人キックオフ」が可能になった理由
「どの方向にも蹴ってよい」というルール変更は、もう一つの大きな変化をもたらしました。それが「一人キックオフ」です。
以前の「前に蹴らなければならない」ルールの時代は、ボールを少し前に動かす人と、そのボールを受けて後ろにパスをする人の、最低2人の選手がセンターサークルに入る必要がありました。一人で前に蹴って自分で追いかけて触ると「二度蹴り(連係プレーなしに同じ選手が2回連続で触る反則)」になってしまうため、必ずパートナーが必要だったのです。
しかし、最初から後ろに蹴ってよいのであれば、センターサークルにいるのはキッカー1人だけで済みます。キッカーがいきなり自陣の後方にいるディフェンダーやミッドフィルダーに強いパスを出せば、二度蹴りの反則にはなりません。このため、最近の試合ではセンターサークルに1人だけが立ち、寂しそうに(?)キックオフを行うシーンが当たり前になりました。
昔のルール「前方へのキック」が必要だった時代
ここで少し、昔のルールでのキックオフを懐かしんでみましょう。ベテランのファンにとっては「二人一組」のキックオフこそがサッカーの原風景かもしれません。
当時は、FW(フォワード)の選手が2人でセンターサークルに入り、向かい合ったり並んだりしていました。主審の笛が鳴ると、1人がボールを靴の裏やインサイドで「チョン」と数十センチだけ前に転がします。そして、もう1人がそのボールをバックパスしたり、ドリブルを開始したりしていました。
この「チョン」と触るだけの役割にも、ちょっとしたテクニックや味方との呼吸が必要でした。時には緊張して空振りしてしまったり、前に転がすつもりが後ろに転がってしまい、厳格な主審にやり直しを命じられたりすることもありました。現在では見られなくなったこの儀式的な動きも、かつてのサッカールールの名残として語り継がれています。
現代サッカーで見られるポゼッション重視のスタート
ルール改正により、現代のキックオフは非常に戦術的かつ効率的になりました。多くのチームが採用しているのが、「ポゼッション(ボール保持)を確実に確保するスタート」です。
キックオフ直後にボールを失うことは、失点のリスクに直結する最悪のシナリオです。そのため、無理に敵陣へ攻め込むのではなく、まずは確実に自陣の深い位置にいるセンターバックやボランチへボールを下げます。そこから全員でポジションを整え、相手の出方を伺いながらビルドアップ(攻撃の組み立て)を開始するのが主流です。
一人キックオフでスムーズにバックパスが出せるようになったことで、開始直後から落ち着いたボール回しが可能になりました。派手さはありませんが、ボールを大切にする現代サッカーの考え方が、このキックオフのスタイルにも色濃く反映されているのです。
キックオフで直接ゴールは狙える?得点に関する規定

「試合開始の笛と同時に、思いっきりシュートを打ったらどうなるの?」そんな疑問を持ったことはありませんか? サッカーのルールには、このような珍しいケースについても明確な規定があります。
ルール上は「直接ゴール」が認められている
結論から言うと、キックオフから直接相手ゴールにシュートを打ち、それが入れば得点は認められます。これを「キックオフゴール」と呼びます。
ルールブック(競技規則)には「キックオフから相手競技者のゴールに直接得点することができる」と明記されています。つまり、他の誰も触らず、キッカーが蹴ったボールがそのままゴールネットを揺らせば、正真正銘の1点となるのです。間接フリーキックのように「誰かが触らないとダメ」という制約はありません。
ただし、これはあくまで「相手ゴールに入った場合」に限られます。極めて稀なケースですが、もし強風などでボールが戻ってきたり、キックミスで自分のチームのゴールに直接入ってしまった場合は、得点(オウンゴール)にはならず、相手チームにコーナーキックが与えられます。
「キックオフゴール」が起こる条件と成功率
ルール上は可能といっても、実際にプロの試合でキックオフゴールが決まることは滅多にありません。なぜなら、ゴールまでの距離が約50メートルもあり、相手にはゴールキーパーがいるからです。
キックオフゴールが成功するためには、いくつかの条件が重なる必要があります。まず、相手のゴールキーパーが油断して前に出てきていること。次に、キッカーに50メートルを正確に飛ばすキック力と技術があること。そして、風向きなどの運も味方につける必要があります。
成功率は極めて低いですが、実際に海外リーグや日本のJリーグでも、開始数秒でのキックオフゴールが決まった事例は存在します。キーパーが試合開始直後に集中していない隙を突き、高い放物線を描いたシュートが頭上を越えて入るシーンは、衝撃的なニュースとして世界中を駆け巡ります。
もし自分のゴールに蹴り込んでしまったらどうなる?
先ほど少し触れましたが、「自分のゴールに入ってしまった場合」についても深掘りしておきましょう。「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、ルールを理解する上で面白いポイントです。
サッカーのルールには、「直接フリーキックやキックオフなど、得点が認められるキックであっても、自分のゴールに直接入った場合はオウンゴールにはならず、相手のコーナーキックになる」という大原則があります。これは、不用意なミスや風による事故でオウンゴールになるのを防ぐ、あるいは八百長的な行為への対策とも言えるかもしれません。
もしキックオフでバックパスをしようとして、強風に煽られてそのまま自軍のゴールに入ってしまったとしても、相手に1点が入るわけではなく、コーナーキックから再開となります。ただし、ゴールキーパーが慌てて触ってから入ってしまった場合は、キーパーが触れた時点でインプレー中のボールとなるため、オウンゴールが記録されます。
試合開始直後の奇襲攻撃「ロングシュート」のロマン
確率が低いとわかっていても、キックオフシュートにはロマンがあります。特に、負けている状況での得点後の再開や、相手チームを精神的に揺さぶりたい時に、イチかバチかの奇襲として狙う選手もいます。
観客としても、キッカーが助走を長めにとったり、ゴールキーパーをチラチラと見ていたりすると、「もしかして打つのか?」と期待感が高まります。たとえ入らなくても、枠を捉えるようなシュートであれば、相手キーパーに「今日は狙ってくるぞ」というプレッシャーを与えることができます。
現代サッカーでは確実性が重視されますが、こうした遊び心や大胆な発想も、サッカー観戦を楽しむためのスパイスの一つです。もし試合開始直後にロングシュートが見られたら、その積極性を称賛してあげましょう。
意外と複雑?キックオフ時の反則とやり直しになるケース

キックオフは単純なプレーに見えますが、意外と反則ややり直しが発生しやすい場面でもあります。ここでは、よくあるミスのパターンや、審判が笛を吹いてプレーを止めるケースについて解説します。
一番多い反則「二度蹴り(ダブルタッチ)」とは
キックオフで最も気をつけなければならない反則の一つが「二度蹴り(ダブルタッチ)」です。これは、キッカーがボールを蹴った後、他の選手(味方でも相手でも)が触れる前に、もう一度自分でボールに触れてしまう反則です。
例えば、一人でドリブルを始めようとして、ちょんと蹴ってからすぐに自分でドリブルをしてしまうと、この反則になります。ルール上、フリーキックやコーナーキック、そしてキックオフを行った選手は、他の誰かがボールに触れるまでは、再びボールに触ることができません。
もし二度蹴りをしてしまった場合、その地点から相手チームの間接フリーキックで再開となります。やり直しではなく、相手ボールになってしまうので、非常に痛いミスと言えます。
相手選手がセンターサークルに入ってしまった場合
こちらは守備側の反則ですが、キックオフが行われる前に、相手チームの選手がセンターサークル内(ボールから9.15メートル以内)に入ってしまうケースです。
焦ってプレスをかけに行こうとするあまり、キックの瞬間にサークル内に入り込んでいると、主審は笛を吹いてキックオフのやり直しを命じます。これは「不正な位置」でのプレー開始となるためです。
特に、試合終盤で負けているチームが早くボールを奪いたい時などに起こりがちです。審判は厳格にこの距離を見ており、意図的な妨害とみなされれば、注意や警告(イエローカード)が与えられることもあります。
味方選手がハーフウェーラインを越えてしまう「フライング」
攻撃側のチームによくあるのが、味方選手の「フライング」です。前述の通り、キックオフの瞬間、すべての選手は自陣にいなければなりません。
しかし、速攻を仕掛けようとしてウイングやFWの選手が勢い余って、ボールが蹴られるよりも先にハーフウェーラインを越えて敵陣に入ってしまうことがあります。これもルールの要件を満たしていないため、主審はプレーを止めてキックオフのやり直しをさせます。
「ロケットスタート」のような戦術を使う際、タイミングが合わずにフライングしてしまうことが多いです。やり直しになるだけで罰則はありませんが、せっかくの奇襲のチャンスを失うことになります。
審判の笛が鳴る前に蹴ってしまった時の対応
緊張のあまり、主審の笛(ホイッスル)が鳴る前にボールを蹴ってしまうこともあります。これも当然、やり直しとなります。
サッカーのプレー再開において、フリーキックやスローインなどは主審の笛なしで始めてよい場合も多いですが、キックオフに関しては「必ず主審の合図が必要」と決められています。これは、全員の準備が整っているか、観客や放送の準備ができているかなどを主審が最終確認するためです。
笛の前に蹴ってしまった場合、主審は冷静にもう一度セットするように指示します。選手にとっては少し恥ずかしい瞬間ですが、スタジアムの雰囲気に飲まれないよう落ち着くことが大切です。
試合の主導権を握る!コイントスとエンド交代のルール

試合開始前に行われる「コイントス」も、キックオフと密接に関係しています。実はこのコイントスのルールも、2019年にひっそりと、しかし重要な変更が行われました。
コイントスで勝ったチームが得られる「選択権」
試合前、両チームのキャプテンと主審がセンターサークルに集まり、コイントスを行います。主審がコインを投げ、裏か表かを当てたチームが「勝者」となります。
このコイントスに勝ったキャプテンには、選択権が与えられます。選べるのは以下の2つのうちのどちらかです。
1. 「前半に攻めるゴール(エンド、陣地)」を決める権利
2. 「前半のキックオフ」を行う権利
これが2019年の改正後のルールです。それ以前は、勝ったチームは「エンド」しか選べず、負けたチームが自動的に「キックオフ」を行うことになっていました。
2019年の改正で「キックオフ」も選べるようになった
以前のルールでは、「コイントスに勝つ=好きな陣地を選べるが、ボールは相手から始まる」という決まりでした。しかし、改正によって勝者は「ボールを持って始めたい」と思えばキックオフを選べるようになったのです。
この変更は戦術的に大きな意味を持ちます。「前半開始早々に自分たちのペースでボールを回してリズムを作りたい」と考えるチームは、あえてキックオフを選びます。逆に、「西日が眩しいから前半は背を向けたい」「風上に立ちたい」といった環境要因を重視する場合は、エンドを選び、キックオフ権を相手に譲ることもあります。
前半と後半で陣地とボールを交換する意味
コイントスで決まったのはあくまで「前半」のことです。後半開始時には、両チームは必ずエンド(陣地)を入れ替えます。そして、前半にキックオフを行わなかった方のチームが、後半のキックオフを行います。
これにより、両チームは公平に条件を分け合うことになります。例えば、風が強い日や、ピッチの状態が片方だけ悪い場合でも、前半と後半で入れ替わることで有利不利を相殺するのです。
もしコイントスで勝ったチームが「前半のキックオフ」を選んだ場合、負けたチームは「前半のエンド」を決めます。そして後半は、勝ったチームがエンドを変え、負けたチームがキックオフを行うことになります。
延長戦やPK戦に入る前のコイントスの違い
90分で決着がつかず延長戦に入る場合、もう一度コイントスが行われます。ここでも手順は同じで、勝った方が「延長前半のエンド」か「延長前半のキックオフ」を選びます。
さらにPK戦(ペナルティーシュートアウト)になる場合も、再びコイントスが行われますが、ここでの意味合いは少し異なります。PK戦ではまず「どちらのゴールを使用するか」を主審が決める場合が多く(安全面等を考慮)、その後に行われるコイントスで勝ったチームは、「先攻か後攻か」を選ぶことができます。
PK戦では統計的に先攻が有利と言われることが多いため、このコイントスは勝敗を分ける非常に重要な運命の分かれ道となります。
知っておくと面白い!キックオフにまつわる戦術とオフサイドの知識

最後に、少しマニアックですが知っていると「おっ!」と思われるような、キックオフに関する戦術や、よく議論になるオフサイドとの関係について解説します。
全員でライン際に並ぶ「ロケットスタート」戦術
時折、キックオフの瞬間に攻撃側の選手全員がハーフウェーライン上に横一列に並んでいる光景を見ることがあります。これは「ロケットスタート」などと呼ばれる奇襲戦術の一つです。
笛が鳴ると同時に、ボールを蹴る選手以外が一斉に相手陣内へダッシュします。キッカーは大きくロングボールを敵陣深くに蹴り込み、走り込んだ味方が競り勝ってゴールを狙う、という非常にアグレッシブな作戦です。
この戦術は、相手の守備陣形が整う前にカオスな状況を作り出せるメリットがありますが、一方でカウンターを受けやすいというリスクもあります。高校サッカーや、どうしても得点が欲しい試合終盤などで見られることがあります。
キックオフ直後のパスに「オフサイド」はあるのか?
「キックオフのボールを直接受けた場合、オフサイドになるのか?」という疑問は、ルール通の間でもよく話題になります。
まず前提として、ゴールキック、スローイン、コーナーキックには「直接受けてもオフサイドにならない」という例外規定があります。しかし、キックオフにはその例外規定がありません。
つまり、理論上はキックオフでもオフサイドは適用されます。しかし、現実的には「キックオフの最初のパスでオフサイドになることはほぼあり得ない」のです。
なぜなら、キックオフの瞬間、味方選手は全員「自陣」にいなければならないからです。オフサイドは「相手陣内」にいることが適用の条件です。キックされた瞬間に自陣にいる限り、絶対にオフサイドポジションにはなりません。もし敵陣にいたとしたら、それはオフサイド以前に「キックオフ時の立ち位置違反(フライング)」となり、キックオフのやり直しになるはずだからです。
ただし、一度バックパスをして、2手目以降にロングボールを蹴る場合は、当然通常のプレーと同じようにオフサイドが適用されます。ここを混同しないようにしましょう。
なぜ多くのチームがバックパスを選択するのか
現代サッカーにおいて、9割以上のチームがキックオフでバックパスを選択します。これには明確な理由があります。
それは「ボール保持率(ポゼッション)の価値が高まったから」です。一か八かのロングボールを蹴って相手にボールを渡してしまうよりも、確実に自分たちでボールを持ち、相手を動かしながら攻め手を探る方が、得点の確率が高いと考えられているのです。
また、開始直後に全員でボールに触ることで、選手たちの緊張をほぐし、リズムを作る効果もあります。「まずは落ち着いて入ろう」というチームの意思表示が、あのバックパスには込められています。
観戦時に注目したい「開始直後の5分間」の攻防
試合開始のキックオフから最初の5分間は、その日の試合展開を占う重要な時間帯です。
相手がどのようなプレッシャーをかけてくるのか、自分たちはどうやってボールを運ぶのか、両チームの狙いがキックオフ直後の動きに凝縮されています。ゆっくりパスを回すのか、それとも隙あらば縦パスを狙うのか。キックオフのやり方一つを見るだけでも、監督の意図やチームの戦術が見えてきます。
ぜひ次の試合観戦では、ホイッスルが鳴った瞬間の選手たちの動きや、ボールの行方に注目してみてください。単なる「試合開始」ではなく、高度な駆け引きの幕開けであることがわかるはずです。
まとめ:サッカーのキックオフのルールを理解して観戦を楽しもう
今回は、サッカーの「キックオフ」のルールについて、基本から最新の改正、そして戦術的な背景まで詳しく解説しました。
かつては前方にしか蹴れなかったボールが、今では自由に蹴れるようになり、それに伴って「一人キックオフ」や「ポゼッション重視のスタート」が主流になりました。また、キックオフゴールがルール上認められていることや、コイントスでキックオフを選べるようになったことなど、意外な発見もあったのではないでしょうか。
キックオフは単なる開始の合図ではなく、チームの戦略が詰まった最初のワンプレーです。次にサッカーを見る時は、ぜひ「誰が蹴るのか」「後ろに下げるのか、前に蹴るのか」「選手たちはどう動くのか」に注目してみてください。きっと、今まで以上に試合の奥深さを感じられるはずです。
記事のポイント
・キックオフは前後半開始、延長戦、得点後に行われる。
・2016年の改正で、ボールはどの方向に蹴っても良くなった(後ろでもOK)。
・キッカー以外の選手は必ず自陣に、相手選手はセンターサークルの外にいなければならない。
・キックオフからの直接ゴールは認められている。
・キックオフの最初のパスでオフサイドになることは、ルール上ほぼあり得ない(自陣にいなければならないため)。
・コイントスの勝者は、エンドだけでなくキックオフ権も選べるようになった。
ルールを知れば知るほど、サッカー観戦は面白くなります。この記事が、あなたのサッカーライフをより豊かにするきっかけになれば幸いです。



