サッカーの試合を見ていると、「今日のチームは5バック気味に戦っているな」や「守備を固めるために5バックに変更した」といった実況や解説を耳にすることがあるかもしれません。一般的に「守り一辺倒」というイメージを持たれがちなこの戦術ですが、実は現代サッカーにおいて非常に奥深く、計算された戦略の一つであることをご存じでしょうか。
単にゴール前を人数で埋めるだけではなく、明確な意図を持って採用される5バックには、チームを勝利に導くための多くの論理が隠されています。この記事では、サッカーにおける5バックの基本的な仕組みから、そのメリット・デメリット、そして現代サッカーでの活用方法について、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説していきます。
サッカー5バックの基本:3バックとの違いや配置を解説

まずは、サッカーにおける「5バック」という言葉が具体的にどのような状態を指すのか、その定義と基本構造について見ていきましょう。また、よく混同されがちな「3バック」との関係性についても詳しく触れていきます。この仕組みを理解することで、試合観戦の解像度がぐっと上がります。
5バックの基本的な定義とピッチ上の配置
5バックとは、その名の通りディフェンスライン(最終ライン)に5人の選手を並べる守備の布陣のことを指します。具体的には、ゴールキーパーの前に3人のセンターバックを配置し、その両脇に「ウイングバック」または「サイドバック」と呼ばれる選手を1人ずつ置く形が基本です。合計5人のディフェンダーが横一列、あるいは緩やかなアーチを描くように並ぶことで、自陣のゴール前を強固に封鎖します。
このシステム最大の特徴は、守備時に相手選手に対して数的優位を作りやすい点にあります。4バックシステムと比べてディフェンダーが1人多いため、相手のフォワードが2人や3人であっても、余ったディフェンダーがカバーに入りやすく、決定的な仕事をさせないための網を張りやすくなります。特に、中央の守備が非常に分厚くなるため、相手に中央突破を許したくない場面で非常に有効な手段となります。
また、ピッチの横幅(約68メートル)を5人で分担して守ることができるため、一人当たりの守備範囲が横方向に狭くなり、ディフェンダー同士の距離感(インターバル)を適切に保ちやすいという特徴もあります。これにより、ディフェンダー間のパスコースを遮断しやすくなるのです。
3バックシステムと5バックの密接な関係
サッカーの戦術を語る上で、「3バック」と「5バック」は表裏一体の関係にあります。実は、これら2つは全く別のシステムというわけではなく、同じ布陣の「局面による呼び方の違い」であることがほとんどです。一般的に、攻撃時にウイングバックが高い位置を取り、後ろに3人のセンターバックが残る状態を「3バック」と呼び、守備時にウイングバックが最終ラインまで下がって5人で守る状態を「5バック」と呼びます。
つまり、多くのチームは「攻撃時は3バック、守備時は5バック」という可変システムを採用しています。試合のメンバー表やフォーメーション図では「3-4-2-1」や「3-5-2」と表記されていても、相手に攻め込まれている時間帯の実質的な布陣は「5-4-1」や「5-3-2」になっているケースが非常に多いのです。
この切り替えのスムーズさが、現代サッカーでは非常に重要視されています。かつては「5バック=引きこもり守備」というネガティブな印象もありましたが、現在は「守備の安定」と「攻撃への厚み」を両立させるための高度な可変システムとして認識されています。したがって、「3バックのチーム」と言われたら、「守備の時は5バックになるんだな」と解釈しても間違いではありません。
ウイングバックが担う重要な役割
5バックシステム(および3バックシステム)において、最も重要であり、かつ過酷な役割を担うのが両サイドに位置する「ウイングバック」です。彼らの動きこそが、このシステムが機能するかどうかを決定づけると言っても過言ではありません。ウイングバックは、守備時には最終ラインまで下がって相手のサイド攻撃を食い止める「5人目のディフェンダー」としてのタスクをこなします。
一方で、自チームがボールを奪って攻撃に転じた瞬間、彼らは一気に相手陣内深く駆け上がり、ウイング(フォワード)のような役割を果たさなければなりません。サイドライン際を縦横無尽にアップダウンし、クロスを上げてチャンスメイクをするだけでなく、時にはゴール前に飛び込んでフィニッシュに絡むことも求められます。
このポジションには、90分間走り続けられる無尽蔵のスタミナと、守備の対人強度、そして攻撃センスのすべてが高いレベルで要求されます。ウイングバックが攻撃参加できないと、チーム全体が後ろに重たくなり、単に守っているだけの防戦一方な展開になってしまいます。逆に、彼らが効果的に機能すれば、守備の堅さと攻撃の迫力を兼ね備えた強力なチームになります。
現代サッカーにおける5バックの立ち位置
かつてのサッカー界では、5バックは「弱者が強者相手に引き分けるための消極的な策」として見られることが多くありました。「ドン引き守備」や「バスを止める(ゴール前をバスで塞ぐように守る)」といった表現で揶揄されることもあったほどです。しかし、現代サッカーにおいてその評価は大きく変わっています。
現在では、世界的な強豪クラブや各国の代表チームでも、5バック(可変式3バック)をメイン戦術として採用するケースが増えています。これは、相手の攻撃戦術が高度化し、4バックだけでは守り切れないスペースやコンビネーションが増えてきたことへの対抗策でもあります。特に、相手が5人のレーンを使って攻撃してくる「5レーン理論」などに対抗するには、守備側も5人でレーンを埋めることが理にかなっているからです。
また、試合の終盤にリードしている状況で、守備固めのために途中からセンターバックを投入し、意図的に5バックへ移行する「クローザー」的な起用も定石となっています。このように、現代の5バックは単なる逃げの戦術ではなく、勝利を確実にするための、あるいは相手の良さを消すための「積極的な守備戦術」として確立されているのです。
なぜ5バックを採用するのか?チームが得られるメリット

監督が5バックを採用する裏には、明確な戦略的意図が存在します。なぜ中盤や前線の人数を削ってまでディフェンスラインの人数を増やすのでしょうか。ここでは、チームが5バックシステムを導入することで得られる具体的なメリットについて深掘りしていきます。
守備ブロックの堅牢さとスペースの消去
5バック最大のメリットは、なんといっても守備ブロックの堅牢さにあります。最終ラインに5人が並ぶことで、ディフェンダー間の距離(ギャップ)を極限まで狭くすることができます。4バックの場合、ディフェンダー同士の間隔が広がりやすく、そこを相手のスルーパスで狙われる危険性がありますが、5バックであればその隙間を物理的に埋めることが可能です。
特に「ハーフスペース」と呼ばれる、中央とサイドの中間にある攻略されやすいエリアを、3人のセンターバックとウイングバックが連携して消しやすいのが強みです。中央には常に3人のセンターバックがいるため、クロスボールを上げられても跳ね返す力が強く、ゴール前の混戦にも強さを発揮します。
また、守備の網を網羅的に張ることができるため、特定のエリアだけでなく、ピッチの横幅全体をカバーしやすくなります。これにより、相手チームはどこから攻めても「壁」があるように感じ、攻撃の手詰まり感を覚えさせることができます。相手にスペースを与えず、息苦しいほどのプレッシャーを与えることができるのが、5バック守備の真骨頂です。
カウンターアタックへの移行しやすさ
守備的なイメージの強い5バックですが、実は鋭いカウンターアタックとの相性が抜群に良いという側面を持っています。自陣深くに人数をかけて守るということは、相手チームも攻略のために前のめりになり、全体が高い位置をとっている状態になります。つまり、相手ディフェンスラインの裏には広大なスペースが広がっているのです。
5バックでボールを奪った瞬間、相手の背後にあるスペースへ向かって素早いパスを送り込むことで、一気に得点のチャンスを作り出すことができます。特に、前線に足の速いフォワードや、キープ力のある選手を残しておけば、少ない人数でも効率よくゴールに迫ることが可能です。
この戦術は「堅守速攻」と呼ばれ、多くのチームが強豪相手にジャイアントキリング(大金星)を起こす際の原動力となってきました。守備で相手を誘い込み、ボールを奪った瞬間に爆発的なスピードで攻め返す。この一連の流れを構築しやすいのが、5バックというシステムの大きな魅力の一つと言えるでしょう。
相手のサイド攻撃に対する強さ
現代サッカーでは、強力なウイングプレーヤー(サイド攻撃手)を擁するチームが多く、サイドからの突破が失点の大きな要因となります。4バックの場合、サイドバックが1人で相手のウイングに対応しなければならない場面が多く、1対1で抜かれると即失点につながるリスクがあります。
しかし、5バックであれば、ウイングバックが相手のサイド攻撃に対応しつつ、その背後や内側を左右のセンターバックがカバーするという「二段構え」の守備が可能になります。仮にウイングバックがドリブルで抜かれたとしても、すぐにセンターバックがカバーに入れるため、決定的なピンチを防ぐことができます。
【5バックのサイド守備の利点】
・常に数的優位を作りやすい(2対1の状況など)
・裏のスペースへのケアが容易になる
・クロスを上げられても中の人数が足りている
このように、サイドを起点とする攻撃に対して組織的な強さを発揮できるため、個の能力が高いアタッカーを擁する相手に対して、5バックは非常に有効な対抗策となるのです。
導入前に知っておきたい5バックのデメリットと課題

ここまでメリットを中心にお話ししてきましたが、当然ながら5バックにも弱点やデメリットは存在します。完璧な戦術など存在しないように、5バックを採用することで失われる要素や、発生しうるリスクについてもしっかりと理解しておく必要があります。
前線の人数不足による攻撃力低下
守備に人数を割くということは、必然的に攻撃に回せる人数が減ることを意味します。フィールドプレーヤーは10人しかいませんから、そのうち5人を最終ラインに配置すれば、残りの5人で中盤と前線を構成しなければなりません。これにより、攻撃時に「パスの出しどころがない」「前線でボールをキープしても孤立してしまう」という状況が頻発します。
特に、相手ゴール前までボールを運んだとしても、攻撃参加する人数が足りず、厚みのある攻撃を仕掛けるのが難しくなります。ウイングバックの上がりを待つ時間を作れれば良いのですが、それができない場合は単調な攻めになりがちです。結果として、シュート数や得点機会が減少し、「守れてはいるが、点が入る気配がない」というジリ貧の展開に陥るリスクがあります。
フォワードの選手には、数的不利な状況でもボールを収める卓越したポストプレーの能力や、独力で打開する個人技が求められます。そういったタレントがいないチームが安易に5バックを採用すると、攻撃が全く機能しなくなる可能性があるのです。
中盤の数的不利とボール支配率
5バックを採用すると、構造的に中盤(ミッドフィルダー)の人数が少なくなる傾向があります。例えば「5-3-2」や「5-4-1」といった布陣では、中盤の底や中央エリアを担当する選手が2人や3人になります。対する相手が「4-3-3」や「4-4-2」などで中盤に厚みを持たせている場合、ピッチ中央での主導権争いで数的不利に立たされることになります。
中盤を相手に支配されると、ボール保持率(ポゼッション)が低下し、常に守備に追われる時間が長くなります。ボールを奪っても、パスをつなぐコースを中盤で塞がれてしまい、すぐに奪い返されて二次攻撃を受けるという悪循環に陥りやすくなります。
中盤の選手は、数的不利を補うために広範囲を走り回り、スライドしてスペースを埋めるという過酷な運動量を強いられます。もし中盤の選手に疲労が蓄積し、プレッシャーがかけられなくなると、相手に自由な位置からミドルシュートを打たれたり、決定的なスルーパスを出されたりする危険性が高まります。
守備的になりすぎて押し込まれるリスク
5バックは「守備を固める」という意識が強くなりやすいシステムであるため、チーム全体が必要以上に自陣深くまで下がってしまう(リトリートしてしまう)という心理的な罠があります。これを「重心が重くなる」と表現することがあります。
あまりにも低い位置でブロックを組んでしまうと、相手に自陣深くまで簡単に進入を許してしまいます。ゴールに近い位置でプレーされるということは、それだけ事故(オウンゴールやハンド、不運なこぼれ球)による失点のリスクが高まることを意味します。また、クリアしてもすぐに相手に拾われ、波状攻撃を受け続ける「サンドバッグ状態」になりかねません。
5バックであっても、適切なラインの高さを保ち、時には前からプレッシャーをかけに行く勇気が必要です。しかし、一度「守りに入ろう」という意識がチーム全体に蔓延すると、そこからラインを押し上げるのは非常に難しく、結果的に押し込まれ続けて失点するというパターンは少なくありません。
5バックシステムにおける各ポジションの具体的な役割

5バックを機能させるためには、各ポジションの選手がそれぞれのタスクを高いレベルで遂行する必要があります。ここでは、5バック特有の動きや求められる能力について、ポジションごとに詳しく解説します。
センターバック(CB)に求められる能力
3人配置されるセンターバックは、5バック守備の要です。中央に位置する選手(スイーパーやリベロと呼ばれることもあります)は、ライン全体の統率とカバーリングが主な役割です。左右のセンターバックが前に出たりサイドにつり出されたりした際に、その背後を埋める危機察知能力が求められます。
一方、左右のセンターバック(ストッパー)には、対人守備の強さはもちろん、攻撃時にはビルドアップ(攻撃の組み立て)に参加する能力も求められます。現代サッカーでは、左右のセンターバックがドリブルで持ち上がって数的優位を作ったり、鋭い縦パスを入れたりすることが攻撃のスイッチとなります。
ウイングバック(WB)の運動量と判断
前述の通り、ウイングバックは5バックシステムの生命線です。彼らに求められるのは、単に走る距離の長さだけではありません。「いつ上がるべきか」「いつステイ(自重)すべきか」という状況判断の質が極めて重要です。
攻撃に出るタイミングが遅ければチャンスを逃しますし、無理に上がってボールを失えば、その背後の広大なスペースを相手に使われてしまいます。また、守備時には大外のレーンを一人で封鎖しつつ、逆サイドからのクロスに対してはファーサイド(遠い側)のゴール前まで絞ってヘディングで競り合うなど、守備範囲も広大です。
近年では、利き足とは逆のサイドに配置され、中へ切り込んでシュートを狙う攻撃的なウイングバックも増えています。彼らのパフォーマンスが、チームの攻撃力と守備力の両方を左右すると言っても過言ではありません。
ボランチと前線の選手の守備貢献
5バックの後ろが盤石であっても、その前のフィルター役となるボランチ(守備的MF)や前線の選手が機能しなければ守備は崩壊します。ボランチは、5人のディフェンスラインの前にあるスペース(バイタルエリア)を埋め、相手に自由なミドルシュートやラストパスを許さないように警戒し続ける必要があります。
また、前線のフォワードも「守備免除」ではありません。相手のセンターバックやボランチに対してパスコースを限定するようなプレッシング(コースカット)を行う必要があります。前線が適切に誘導することで、後ろの5バックが狙い所を絞ってボールを奪いやすくなるからです。
5バックは「後ろの5人に任せておけばいい」というシステムではありません。前線から最終ラインまで、チーム全員が連動して初めて鉄壁の要塞となります。
5バック攻略法:相手が守りに入った時の崩し方

ここまでは守る側の視点で解説してきましたが、逆に「相手が5バックで守りを固めてきた場合」はどうすれば良いのでしょうか。サッカー観戦において、攻めあぐねるチームがどう打開しようとしているかを見るのも一つの楽しみ方です。ここでは代表的な攻略法を紹介します。
サイドチェンジで守備網を揺さぶる
5バックは横幅の守備に強いですが、それでも人間がスライド(移動)するには時間がかかります。そこで有効なのが、素早いサイドチェンジです。片方のサイドに相手の守備ブロックを集結させておき、一気に逆サイドへ長いパスを展開します。
ウイングバックがスライドしてくる前に、手薄になった逆サイドで1対1を仕掛けたり、フリーでクロスを上げたりすることでチャンスを作ります。これを何度も繰り返すことで、相手の守備陣を左右に走らせ、スタミナを消耗させると同時に、スライドのズレ(守備のほころび)を誘発させることができます。
中盤からのミドルシュートとセカンドボール
ゴール前をガチガチに固められている場合、パスワークだけで崩してペナルティエリア内に侵入するのは至難の業です。そこで重要になるのがミドルシュートです。エリアの外から積極的にシュートを打つことで、相手ディフェンダーを「シュートブロックのために前に出さざるを得ない」状況にします。
ディフェンダーが前に出てくれば、その背後にスペースが生まれます。また、強烈なミドルシュートはゴールキーパーがキャッチしきれずに弾く可能性が高く、その「こぼれ球(セカンドボール)」を詰めることで得点が生まれやすくなります。事故的な得点も期待できるため、引いた相手にはシュート意識を高く持つことが定石です。
個人技での突破とセットプレーの活用
組織的な守備を破壊する最もシンプルな方法は、理屈を超えた「個の力」です。ドリブルで1人、2人と剥がすことができれば、相手の守備組織はパニックに陥り、必ずどこかにフリーの選手が生まれます。5バック攻略には、局面を独力で打開できるドリブラーの存在がカギを握ります。
【メモ】
コーナーキックやフリーキックなどの「セットプレー」も非常に重要です。流れの中では崩せなくても、静止した状態からのプレーであれば、守備ブロックの堅さは関係ありません。引いた相手に対しては、セットプレーが唯一の得点源になることも珍しくありません。
まとめ:サッカー5バックは守備だけでなく攻撃の起点にもなる戦術
今回は「サッカー5バック」というキーワードを中心に、その仕組みやメリット・デメリット、そして各ポジションの役割について解説してきました。かつては守備的で退屈な戦術と見なされることもありましたが、現代サッカーにおいては、緻密な計算に基づいた戦略的なオプションの一つとして確立されています。
5バックは単にゴール前を固めるだけではなく、相手のスペースを消し、ボールを奪った瞬間に鋭いカウンターを繰り出すための発射台でもあります。ウイングバックのダイナミックな動きや、3人のセンターバックによる堅牢なブロック、そしてそれを攻略しようとする相手チームとの駆け引きなど、5バックに注目することで試合の見どころは大きく広がります。
次にサッカーの試合を観戦する際は、ぜひディフェンスラインの人数に注目してみてください。「なぜ今5バックにしているのか?」「どこでボールを奪おうとしているのか?」といった視点を持つことで、サッカーの奥深さをより一層楽しめるはずです。



