「J2で優勝したのに、J1に上がれないなんてことがあるの?」
サッカーの応援をしていると、ときどき耳にする「J1ライセンス」という言葉。実は、どれだけ試合で強くても、このライセンスを持っていないと上のカテゴリーには進めないという、残酷なルールが存在します。
「ウチのチームは大丈夫かな?」「スタジアムがボロいけど平気?」と不安に思うサポーターの方も多いのではないでしょうか。このライセンス制度は非常に複雑で、毎年のようにルールが変わったり、特例が出たりしています。
この記事では、J1ライセンスを持たないチームはどうなるのか、なぜライセンスが降りないのか、そして最新の2025年度の判定結果について、どこよりもわかりやすく解説します。サポーターとして知っておくべき「ピッチ外の戦い」について、一緒に学んでいきましょう。
J1ライセンスないチームが直面する現実とは

Jリーグには、試合の勝ち負けとは別に、クラブの経営や施設がプロとしてふさわしいかをチェックする「クラブライセンス制度」があります。これは毎年厳しく審査され、「J1」「J2」「J3」のそれぞれの基準をクリアしたチームにのみ、ライセンスが交付されます。
もっとも重要な点は、「そのカテゴリーのライセンスがないと、順位が良くても昇格できない」というルールです。たとえば、J2リーグで優勝して本来ならJ1へ自動昇格できる成績を残しても、J1ライセンスを持っていなければ昇格の権利は消滅し、J2に残留することになります。
なぜライセンス制度が必要なのか
「強ければいいじゃないか」と思うかもしれませんが、Jリーグはクラブの「継続的な経営」をとても大切にしています。無理な運営をして破産してしまったり、選手にお給料が払えなくなったりしては、リーグ全体への信頼が失われてしまいます。
また、観客が安全・快適に観戦できるスタジアムがあるかどうかも重要です。プロスポーツとして興行を成り立たせるための「最低限の品質保証」が、このライセンス制度なのです。
ライセンスには3つの種類がある
ライセンスは上位から順に「J1クラブライセンス」「J2クラブライセンス」「J3クラブライセンス」の3種類があります。J1ライセンスを持っていれば、J1・J2・J3のどこでも戦うことができます。
しかし、J2ライセンスしか持っていないチームは、どれだけ頑張ってもJ2までしか所属できません。これが「J1ライセンスないチーム」が恐れる最大の壁です。特にJ2で上位争いをするチームにとって、秋に発表されるライセンス判定の結果は、昇格争いと同じくらい胃が痛くなるイベントなのです。
幸いなことに、近年は制度が見直され、以前よりも柔軟な対応が取られるようになってきました。それでも、これから紹介する「スタジアム基準」などは、依然として多くの地方クラブを悩ませる大きな課題となっています。
昇格を阻む最大の壁「スタジアム基準」を解説

J1ライセンスを取得するうえで、もっとも高いハードルと言われているのがスタジアムの問題です。実は、チームの経営状態が健全でも、ホームスタジアムが基準を満たしていないためにライセンスが交付されない(あるいは条件付きになる)ケースが後を絶ちません。
具体的にどのような設備が必要なのか、サポーターが気になるポイントをピックアップして見ていきましょう。
「15,000人」という収容人数の壁
J1ライセンスでもっとも有名な基準が、「入場可能数15,000人以上」というルールです。J2であれば10,000人で済みますが、J1に上がるためにはより大きなスタジアムが必要になります。
地方の陸上競技場や古い球技場では、座席数が足りないことがよくあります。芝生席(座席のない斜面)は観客席としてカウントされないケースが多いため、「スタジアム自体は広いのに、席数が足りない」という事態が起こるのです。
屋根とトイレの厳しい基準
席数だけでなく、「質」も問われます。特に厳しいのが「屋根」と「トイレ」です。Jリーグの理想としては、観客席のすべてを屋根で覆うことが求められています。雨の日でも快適に観戦できるようにするためです。
また、トイレの数も「観客1,000人あたり何個」と細かく決まっています。古いスタジアムでは和式トイレが多く、数も少ないため、改修工事が必要になることがよくあります。
「制裁」を受けてもライセンスは降りる?
実は、スタジアム基準には「絶対に守らなければならないA等級」と、「守らなくてもライセンスは降りるが、制裁(罰金や改善計画の提出)があるB等級」があります。
収容人数(15,000人)はA等級なので必須ですが、屋根のカバー率などはB等級です。そのため、「屋根が足りないけれど、J1ライセンスは交付される」というチームはたくさんあります。ただし、その場合は「いつまでに屋根をつけます」という計画書を提出し、Jリーグに約束しなければなりません。
救世主となるか?「例外規定」でライセンス交付されるチーム

「スタジアムを新しく建て直すには何十億円もかかるし、すぐには無理だ……」。そんなクラブのために、近年導入されたのが「例外規定」です。このルールの登場により、J1昇格のチャンスが多くのクラブに広がりました。
この規定を知っておくと、なぜあのチームがJ1ライセンスを持っているのかがよく分かります。
「5年以内に作ります」という約束
例外規定とは、簡単に言うと「今は基準を満たしていなくても、近い将来に新しいスタジアムを作る(または改修する)ことが確定しているなら、先にライセンスをあげましょう」という制度です。
具体的には、「昇格してから3年以内に工事を始め、5年以内に完成させる」といった条件を満たす計画書を提出し、認められればJ1ライセンスが交付されます。これにより、行政と協力して新スタジアム構想を進めているクラブは、現在のスタジアムが古くても昇格の権利を得られるようになりました。
この規定で救われたクラブたち
2025年シーズンのライセンス判定でも、この例外規定のおかげでJ1ライセンスを手にしているクラブがいくつもあります。
【例外規定の適用を受けている主なクラブ】
・ブラウブリッツ秋田
・いわきFC
・水戸ホーリーホック
・藤枝MYFC
・鹿児島ユナイテッドFC など
これらのチームは、かつてなら「ライセンス不交付」で昇格を断念していたかもしれませんが、現在は「条件付き」でJ1への扉が開かれています。
あくまで「猶予」であり「免除」ではない
注意しなければならないのは、これはあくまで「時間の猶予」をもらっただけだという点です。約束の期限までにスタジアム整備が進まなければ、ライセンスが剥奪されたり、厳しい処分が下されたりする可能性があります。
そのため、これらのクラブのサポーターは、試合の順位だけでなく、「新スタジアム計画が順調に進んでいるか」というニュースにも常に気を配る必要があります。
【2025年度版】J1ライセンス未交付・条件付きの注目チーム

では、最新の2025シーズンに向けた判定結果(2024年9月発表)では、どのような状況になっているのでしょうか。公式発表に基づき、J1ライセンスを持っていないチームや、気になる動きをまとめました。
2025年度、J1ライセンス申請チームは「不交付ゼロ」
驚くべきことに、2025シーズンの判定では、J1ライセンスを申請した49クラブすべてにライセンスが交付されました。つまり、「申請したのに落ちた」というチームはゼロです。
これは、各クラブが経営努力を重ね、スタジアム問題についても例外規定などを活用してクリアした結果です。かつてのように「上位にいるのにライセンスで涙を飲む」という悲劇は、以前より起こりにくくなっています。
現在「J2ライセンス」のみのチーム一覧
申請して落ちたチームはいませんが、そもそも「J1ライセンスを申請せず、J2ライセンス(またはJ3ライセンス)のみを取得したチーム」は存在します。これらのチームは、もしJ2で優勝するような奇跡が起きても、現状ではJ1には行けません。
2025年度時点で、J1ライセンスを持たない(=J2ライセンス止まりの)主なクラブは以下の通りです。
| クラブ名 | 所属(2024) | 現状の課題 |
|---|---|---|
| ヴァンラーレ八戸 | J3 | スタジアム・財務 |
| FC今治 | J3 | スタジアム規模 |
| ガイナーレ鳥取 | J3 | 経営規模 |
| テゲバジャーロ宮崎 | J3 | スタジアム |
※ほか、福島、YS横浜、相模原、長野、沼津、FC大阪、奈良などが該当します。
注目はFC今治やFC大阪などの新興勢力
特に注目なのは、J3で好成績を残しているFC今治などです。今治は素晴らしいサッカー専用スタジアム(今治里山スタジアム)を完成させましたが、現在の収容人数等の関係でJ1ライセンス申請は見送っています(J2ライセンスは取得)。
これらのチームは、まずは「J2昇格」が現実的な目標であり、J2に定着してからスタジアムを拡張してJ1ライセンスを狙うという、段階的なステップを踏んでいます。
過去に泣いたチームと今後のライセンス制度の行方

今は例外規定などで柔軟になりましたが、過去には「ライセンスがない」という理由だけで、選手やサポーターが悔し涙を流した事例があります。これらの歴史を知ることで、ライセンスの重みがより理解できるはずです。
2015年 ギラヴァンツ北九州の悲劇
もっとも有名な事例の一つが、2015年のギラヴァンツ北九州です。J2リーグで快進撃を続け、最終的に年間順位を上げましたが、当時の本拠地(北九州市立本城陸上競技場)がJ1基準を満たしていませんでした。
新しいスタジアム(ミクニワールドスタジアム北九州)の建設は決まっていたものの、完成時期が間に合わず、特例もなかったためJ1ライセンスが交付されませんでした。結果として、昇格プレーオフにも参加できず、昇格の夢は絶たれました。
2018年 FC町田ゼルビアの無念
現在ではJ1で活躍するFC町田ゼルビアも、過去にはライセンスの壁に阻まれています。2018年、サイバーエージェントグループ入りして力をつけた町田はJ2で4位に入りました。
本来ならJ1参入プレーオフに出場できる順位でしたが、スタジアムの観客席数などが足りずJ1ライセンスを持っていなかったため、プレーオフ出場権を得られませんでした。この悔しさが、その後のスタジアム改修やJ1昇格への大きな原動力になったと言えます。
制度は少しずつ「緩和」の方向へ
こうした過去の教訓や、コロナ禍での経営難を考慮して、Jリーグのライセンス制度は少しずつ「実情に合わせた緩和」が進んでいます。特に財務基準(赤字や債務超過)に関する特例措置や、スタジアムの例外規定は、地方クラブにとって大きな救いです。
今後も、「ハードルが高すぎて夢が見られない」という状況を防ぎつつ、「プロとしての質」をどう保つか、Jリーグと各クラブの挑戦は続いていきます。
まとめ
J1ライセンスを持たないチームについて、その仕組みや背景を解説してきました。最後に、今回の記事のポイントを振り返ります。
「J1ライセンスないチーム」という言葉には、単に施設が足りないというだけでなく、クラブが抱える地域的な課題や、将来へのビジョンが詰まっています。
もしあなたの応援するチームがライセンスの問題に直面していたら、それはチームが「次のステージ」へ進もうとしている成長痛の証かもしれません。ピッチの上だけでなく、スタジアム建設やクラブ経営という大きな戦いに挑むクラブを、ぜひ長い目で見守ってあげてください。




