ハイプレス特有のリスクとは?現代サッカーでハイラインを保つ怖さと対策

ハイプレス特有のリスクとは?現代サッカーでハイラインを保つ怖さと対策
ハイプレス特有のリスクとは?現代サッカーでハイラインを保つ怖さと対策
ルールと戦術を学ぶ

現代サッカーのトレンドとして欠かせないのが、前線から激しく圧力をかける「ハイプレス」です。相手の自由を奪い、高い位置でボールを奪ってショートカウンターに繋げる戦法は非常に強力ですが、その裏には常に大きなリスクが潜んでいます。

ハイプレスを成功させるためには、戦術への深い理解と選手たちの献身的な動きが不可欠です。しかし、一度歯車が狂うと、守備陣が壊滅的なダメージを受けることも珍しくありません。この記事では、ハイプレスを検討・観戦する際に知っておきたいリスクと、その回避策についてやさしく解説します。

なぜハイプレスが諸刃の剣と呼ばれるのか、具体的なデメリットや弱点を知ることで、サッカー観戦の視点がさらに深まるはずです。戦術の華やかさに隠れた「守備の危うさ」を一緒に見ていきましょう。

ハイプレスに潜むリスクの正体と失敗する主な要因

ハイプレスは、守備側が主導権を握るための攻撃的な守備戦術です。しかし、全選手が連動して高い位置を取るため、少しのズレが致命傷になります。まずはハイプレスを仕掛ける際に直面する、最も基本的なリスクについて見ていきましょう。

背後に広大なスペースが生まれるリスク

ハイプレスを成立させるためには、前線の選手が寄せるだけでなく、ディフェンスラインを高く押し上げる必要があります。これを「コンパクトな陣形」と呼びますが、ラインを上げれば上げるほど、ディフェンスラインの背後には広大なスペースが残ってしまいます。

もし相手のボール保持者に十分なプレッシャーがかかっていない状態で、背後へロングパスを放り込まれると、一気にゴールキーパーと1対1の状況を作られてしまいます。足の速いアタッカーを擁するチームを相手にする場合、この背後のスペースは常に致命的な弱点となり得ます。

また、ディフェンダーが後ろ向きに走りながら対応しなければならない点もリスクを高めます。前を向いて走るフォワードに対して、守備側は反転して追いかける必要があるため、コンマ数秒の遅れがそのまま失点に直結するのです。

90分間持続不可能な体力消耗

ハイプレスは、選手全員が常に全力でスプリントを繰り返すことを要求します。相手がボールを動かすたびに、守備陣は連動してポジションを修正し続けなければなりません。この運動量は凄まじく、試合の終盤にスタミナ切れを起こすリスクが極めて高い戦術です。

体力が削られると、一歩の寄せが遅れたり、戻りのスプリントが甘くなったりします。ハイプレスは「全員が連動していること」が前提の戦術であるため、一人でも足が止まると、そこからドミノ倒しのように守備組織が崩壊してしまいます。

特に夏場の試合や過密日程の中では、この肉体的な負荷が大きな懸念材料となります。スタミナが切れた時間帯に無理にプレスを継続しようとすると、相手に軽々とパスを通され、守備が崩壊する原因となるのです。

プレスを剥がされた時の致命的なピンチ

ハイプレスは「網を張る」ような守備ですが、その網をかいくぐられた瞬間、守備側は数的不利に陥りやすくなります。相手の足元の技術が高く、ワンタッチパスやドリブルでプレスを回避(プレス回避、ビルドアップ)された場合、前線に取り残された選手たちは守備に参加できません。

中盤の底や最終ラインに広大なスペースがある状態で、相手が前を向いてボールを運べるようになると、守備側は完全に後手に回ります。この状態を「プレスを剥がされた」と表現しますが、この瞬間に守備の陣形はバラバラになり、カウンターの餌食となります。

特にセンターバックが相手を捕まえに高い位置まで出ていっている場合、そこを突破されると中央に大きな穴が開きます。ハイプレスは成功すればチャンスですが、失敗すれば即失点という、非常にギャンブル性の高い側面を持っているのです。

ハイプレスは「全員で寄せて全員で戻る」という鉄の結束が求められます。一人のサボりや一瞬の判断ミスが、チーム全体の努力を台無しにするリスクがあることを理解しておきましょう。

戦術的に見たハイプレスの構造的な弱点

ハイプレスはシステムとして完成されているように見えますが、論理的な弱点もいくつか存在します。相手チームがどのようにしてハイプレスを無力化してくるのか、戦術的な視点からそのリスクを深掘りしていきましょう。

ロングボール一本で局面を変えられる脆さ

ハイプレスへの最もシンプルな対抗策は、地上戦を避けて空中のロングボールを活用することです。どれだけ前線で厳しく追い回しても、ゴールキーパーやディフェンダーから前線のターゲットマンへ向けて正確なロングキックを蹴られると、中盤のプレス部隊は一瞬で置き去りにされます。

特にターゲットとなるフォワードが空中戦に強く、ボールを収められる選手である場合、ハイプレス側のリスクは倍増します。セカンドボールの回収に失敗すると、相手は一気に高い位置から攻撃を開始できるため、ハイプレスのメリットが完全に消失してしまいます。

このロングボールへの対応を誤ると、ディフェンスラインは下がるしかなくなり、チーム全体が間延びしてしまいます。間延びした状態での守備はハイプレスの理想とは正反対であり、相手にとって最も攻めやすい状況を与えてしまうことになります。

中盤のフィルター機能が低下するリスク

ハイプレスを行う際、中盤の選手たちは高い位置で相手のボランチなどを捕まえに行きます。このとき、中盤の底(アンカーのポジション)が手薄になりやすく、いわゆる「バイタルエリア」に広大な隙間が生じるリスクがあります。

相手のフォワードが中盤に降りてきてボールを引き出したり、サイドハーフが内側に入り込んだりすることで、この中盤の隙間を突かれます。一度ここにパスを通されると、守備陣は前を向いた相手に対して後退しながら対応せざるを得ず、中盤が「ただの通り道」になってしまうのです。

本来、中盤は相手の攻撃を遅らせるフィルターの役割を果たしますが、プレスが空転するとその機能が完全に失われます。高い位置で奪いきれない場合、中盤がバイパスのように通過されることは、守備側にとって最も避けたいシナリオの一つです。

サイドチェンジによるスライドの遅れ

ハイプレスはボールがあるサイドに人数をかけて圧縮する「オーバーロード」という手法をよく使います。しかし、これは逆サイドに大きなスペースを与えていることを意味します。相手に素早いサイドチェンジを行われると、守備側はスライドが間に合いません。

逆サイドで孤立したサイドバックが、相手のウイングと1対1を強いられる場面が多くなります。スライドが遅れると、マークの受け渡しが曖昧になり、フリーの選手を作ってしまいます。この「横の揺さぶり」に対して、ハイプレスを継続するのは戦術的に非常に負荷がかかります。

特にピッチを広く使うチームに対しては、プレスをかける場所が絞りきれず、常に左右に振り回されるリスクがあります。体力が奪われるだけでなく、守備の連動性が分断される要因にもなり、失点のリスクを増大させます。

ハイプレスの弱点まとめ

・ロングボールによるプレス回避に弱い

・中盤のバイタルエリアにスペースを与えやすい

・素早いサイドチェンジで陣形が横に広げられる

ハイプレスを支える「選手の特徴」が招くリスク

戦術は、それを実行する選手がいて初めて成り立ちます。ハイプレスは個々の選手に高い能力を要求するため、選手のタイプやミスがそのままチーム全体のリスクに直結します。どのような選手のリスクが、ハイプレスの成否を分けるのでしょうか。

センターバックに求められる機動力と判断のミス

ハイプレスを採用するチームのセンターバックには、通常以上のスピードと、勇気を持ったラインコントロールが求められます。しかし、常に高い位置をキープすることは精神的にも肉体的にも負担が大きく、判断一つでオフサイドトラップに失敗するリスクが常にあります。

もしセンターバックの一人がラインを上げるのをためらったり、逆に不用意に食いつきすぎたりすると、ディフェンスラインに段差が生まれます。この段差こそが、相手アタッカーにとっての絶好の狙い目となります。1センチのズレがオフサイドを成立させず、決定的なチャンスを許すことになるのです。

また、背後を狙われた際、自陣ゴール方向へ全力で戻りながらボールを処理する技術も必要です。足元の技術が不安定な選手がパニックになると、バックパスのミスやクリアの中途半端な当たりが失点に直結するリスクも高まります。

ゴールキーパーの守備範囲と飛び出しのリスク

ハイプレスの裏側をカバーするため、現代のゴールキーパーには「スイーパー(最後の掃除人)」としての役割が期待されます。高いラインの裏に蹴り込まれたボールを、ペナルティエリアの外まで飛び出してクリアしなければならない場面が増えるからです。

この飛び出しは非常にハイリスクです。一歩判断が遅れれば相手フォワードに先を越され、無人のゴールにシュートを流し込まれます。逆に飛び出しすぎてファウルを犯せば、レッドカードで退場という最悪の結果を招くこともあります。

また、ゴールを空けている時間が長いため、超ロングシュートを狙われるリスクも考慮しなければなりません。足元の技術が高く、リベロのように振る舞えるキーパーがいなければ、ハイプレスという戦術自体が「背後がガラ空き」の無防備なものになってしまいます。

前線選手の守備意識のバラつきによる欠陥

ハイプレスはフォワードから始まります。しかし、ストライカータイプの中には守備への意識が低かったり、プレスのタイミングが理解できていなかったりする選手もいます。一人の選手がプレスを怠るだけで、相手はフリーでビルドアップを開始できてしまいます。

前線の選手が「ただ走っているだけ」の状態になると、後ろの選手はどこまで付いていくべきか迷います。この「迷い」が生じた瞬間が、ハイプレスが最も脆くなる時です。前線が連動していないのに、中盤や最終ラインだけが吊り出されてしまうと、中央に巨大な穴が空いてしまいます。

フォワードがファーストディフェンダーとしての役割を放棄したり、スタミナ温存のために手を抜いたりした瞬間、チーム全体の守備構造は崩壊します。個性の強い選手を抱えるチームほど、この守備意識の統一が難しく、リスクになりやすいと言えます。

ハイプレスは「全員が戦術の奴隷になる」くらいの規律が必要です。個人の自由な判断が、時にチーム全体の崩壊を招くリスクを含んでいます。

相手チームが仕掛ける「ハイプレス攻略」の罠

対戦相手も、当然ハイプレスのリスクを熟知しています。あえてハイプレスを誘い込み、その裏を突くような策略を講じてくることも珍しくありません。相手が仕掛けてくる賢い攻略法についても理解を深めましょう。

意図的に引き込んで背後を突く「疑似カウンター」

最近の戦術トレンドとして、あえて自陣深くでボールを回し、相手のプレスを引き出す手法があります。これを「疑似カウンター」と呼びます。相手が奪いに来るのを待ち、プレスの強度が最大になった瞬間、ワンツーやダイレクトパスで一気に網を突破する狙いです。

ハイプレス側は「奪えそうだ」と思って前に出ていきますが、それこそが相手の罠です。前に出てきた分、後ろには必ずスペースが生まれています。相手はそのスペースをあらかじめ狙っており、プレスを回避した直後に高速な縦パスを送ります。

この罠にハマると、ハイプレス側は全員が前掛かりになっているため、戻りの走りが間に合いません。攻撃的な姿勢が仇となり、自分たちが仕掛けているはずのプレスが、実は相手の攻撃の呼び水になってしまうという皮肉なリスクが存在します。

足元の技術が高いGKを起点としたビルドアップ

ハイプレスは「11対11」の戦いですが、相手ゴールキーパーが11人目のフィールドプレーヤーとして機能する場合、守備側は数的不利に陥ります。キーパーが正確なパスを左右に散らせると、ハイプレスをかける側は一人足りない状況で追いかけ回すことになります。

プレスをかけてもキーパー経由で逃げられ、また逆サイドから作り直される。これを繰り返されると、守備側の体力は削られ、次第にプレスの強度が落ちていきます。「捕まえられそうで捕まえられない」状態が続くリスクは、精神的な焦りも生みます。

最終的に痺れを切らして無理な突っ込み方をすると、そこを簡単にかわされて決定機を作られます。現代サッカーにおいて、足元の巧いキーパーはハイプレスにとって天敵とも言える存在なのです。

審判の判定基準とカードのリスク

ハイプレスは接触プレーが多くなる戦術です。高い位置でボールを奪おうと焦るあまり、無謀なタックルや執拗なシャツの引っ張りなど、ファウルが増える傾向にあります。特に審判の判定基準が厳しい試合では、早い段階でイエローカードを提示されるリスクがあります。

早い時間帯に警告を受けると、その後のプレーは消極的にならざるを得ません。強度の高いプレスが信条の選手がカードをもらってしまうと、そのエリアが「安全地帯」になり、相手に自由にプレーを許すことになります。また、累積警告による出場停止もシーズンを通したリスクです。

さらに、高い位置でのフリーキックを与えてしまうことも懸念点です。現代サッカーではセットプレーからの得点率が高いため、不要なファウルで相手にチャンスを与えることは、ハイプレスの代償としてはあまりにも大きいと言えます。

相手の対策 ハイプレス側のリスク 主な被害内容
疑似カウンター 背後の広大なスペース露出 決定的な1対1を作られる
GKのビルドアップ参加 追い回しによる無駄な疲弊 プレスの無力化とスタミナ切れ
セットプレーの誘発 ファウル増によるカードのリスク 主力選手の退場や次戦出場停止

ハイプレスのリスクを最小限に抑えるための戦術的工夫

リスクが多いハイプレスですが、多くの強豪チームが採用し続けているのは、それに対する「リスク管理」が進化しているからです。プロの現場でどのようにしてハイプレスの危険性を軽減しているのか、その知恵を紹介します。

状況に応じた「プレス開始位置」の変更

90分間、常に相手ゴール前でプレスをかけ続けるのは不可能です。賢いチームは、状況に応じてプレスを開始する位置(プレス開始線)を上下させます。相手が安定してボールを保持している時は一度引いて陣形を整え、特定の条件が揃った時だけフルパワーでプレスをかけるのです。

例えば、「相手のパスが乱れた時」や「バックパスが出た時」などが、プレス発動の合図になります。このように「オン」と「オフ」を使い分けることで、無駄な体力消耗を防ぎ、プレスが空転するリスクを大幅に軽減することができます。

「常に全力」ではなく「ここぞという場面で全力」というメリハリをつけることが、ハイプレスを成功させるための現実的な解となります。これによって、相手に背後を突かれる回数も減り、守備の安定感が増します。

コンパクトな陣形を保つラインコントロール

ハイプレスのリスクの源泉は「間延び」にあります。これを防ぐためには、前線と最終ラインの距離を常に一定(30メートル前後など)に保つ高度なトレーニングが必要です。ラインを高く保つだけでなく、状況に応じて全員で一斉に下がる「リトリート」の判断も重要です。

最近では、ディフェンスラインを高く設定するリスクを回避するために、サイドバックの一人を少し低めに残したり、ボランチがディフェンダーのカバーに入ったりする可変システムも多く見られます。常に誰かが背後のカバー意識を持つことで、ロングボール一発で終わるリスクを抑えます。

連動性を高めるための「声掛け」や「アイコンタクト」も、戦術的な工夫の一つです。ラインコントロールは個人の能力以上に、チームとしての約束事が徹底されているかどうかが鍵となります。

プレスのスイッチ役となる選手の設定

バラバラにプレスを開始するリスクを避けるため、多くのチームには「プレススイッチ」を入れる役割の選手がいます。通常はフォワードや守備意識の高いサイドハーフがその役割を担い、その選手が寄せたのを見て、周囲の選手が一斉に連動を開始します。

このスイッチ役が明確であれば、無駄に追い回して体力を浪費することがなくなります。また、周りの選手も「今は行くべきか、残るべきか」という判断に迷うことがなくなり、守備の強度が統一されます。この一貫性こそが、ハイプレスにおける最大の防御策です。

スイッチ役が適切に機能しているチームは、相手の自由を効果的に奪いつつ、自分たちの背後のリスクを最小限に抑えることができます。選手同士の信頼関係と戦術理解が、ハイプレスという難解な戦術を支える土台となるのです。

ハイプレスは「根性」で行うものではなく、非常に計算された「数学的」な守備です。リスクを管理するためのルール作りこそが、チームの真の強さを決定づけます。

ハイプレスのリスクを正しく理解するためのまとめ

まとめ
まとめ

ハイプレスは、現代サッカーにおいて最もエキサイティングで強力な戦術の一つですが、常に大きなリスクと隣り合わせです。そのリスクを正しく理解することは、試合をより深く、より面白く観戦するための第一歩と言えるでしょう。

改めて、ハイプレスに潜む主なリスクを振り返ります。

まず、ディフェンスラインを高く設定することによる「背後の広大なスペース」の露出です。ここを突かれると失点に直結するため、常にディフェンダーとゴールキーパーには極限の緊張感が強いられます。

次に、激しい運動量による「体力消耗」と「終盤の失速」です。90分間を通してプレスの強度を保つのは至難の業であり、疲労による一瞬の隙が、それまでの努力を無に帰すことがあります。また、相手の巧妙なパス回しによってプレスを剥がされた際、守備陣が数的不利に陥るリスクも無視できません。

さらに、個々の選手の判断ミスや能力不足、そして相手が仕掛ける「疑似カウンター」などの罠も、ハイプレスの成功を阻む大きな壁となります。審判の判定によってファウルが増え、退場者やカードの累積が発生する点も、シーズンを戦う上での大きな懸念材料です。

しかし、これらのリスクを乗り越え、完璧に連動したハイプレスが決まった時の破壊力は凄まじいものがあります。高い位置でボールを奪い、電光石火の速さでゴールを陥れる姿は、まさに現代サッカーの醍醐味です。

今度サッカーを観る時は、ただ「プレスをかけている」という表面的な動きだけでなく、その裏側にある「スペースの怖さ」や「選手の疲弊」にも注目してみてください。リスクと隣り合わせの中で戦う選手たちの姿を知ることで、サッカーの戦術的な面白さがより一層際立つはずです。

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