近年の夏場のサッカーは、プロからアマチュア、ジュニア世代に至るまで非常に過酷な環境で行われています。そこで重要になるのが、選手の安全を守るために設けられた「給水タイム」の存在です。観戦している際に、突然審判がホイッスルを鳴らして試合が中断し、選手たちが一斉に水を飲みに行くシーンをよく見かけるようになりました。
この中断には明確な規定があり、ただ喉が渇いたから休むというわけではありません。この記事では、サッカーの給水タイムにおけるルールの基準や、似た言葉であるクーリングブレイクとの違い、さらには試合時間に与える影響について、初心者の方にも分かりやすく解説します。
サッカーをプレーする方はもちろん、お子さんの試合を応援する保護者の方や、スタジアムで観戦を楽しむファンの方も、ルールを正しく知ることでより深く試合を楽しめるようになります。それでは、具体的な仕組みについて詳しく見ていきましょう。
サッカーの給水タイムにおけるルールの基準と仕組み

サッカーの試合中に設けられる給水タイムは、単なる休憩時間ではありません。日本サッカー協会(JFA)や国際サッカー連盟(FIFA)によって定められた、選手の健康を守るための厳格なガイドラインに基づいています。まずは、どのような基準で導入が決まるのかを確認しましょう。
「給水タイム」と「クーリングブレイク」の明確な違い
サッカーの熱中症対策には、大きく分けて「給水タイム」と「クーリングブレイク」の2種類があります。これらは混同されがちですが、中断時間や目的が明確に異なります。まず給水タイムは、その名の通り水分を補給することが目的で、中断時間は最大でも1分間と短く設定されています。
一方で、クーリングブレイクは体の深部体温を下げることを目的としています。中断時間は3分間に及び、選手は日陰に入ったり、氷で首元を冷やしたりすることが推奨されます。給水タイムよりも、より深刻な暑さの場合に実施される措置だと覚えておくと良いでしょう。
どちらが実施されるかは、その日の気温や湿度を元にした数値によって判断されます。観客として見ている際も、1分程度の短い休憩なら給水タイム、少し長めの中断ならクーリングブレイクだなと判別できるようになると、試合の流れを把握しやすくなります。
いつ実施される?WBGT(暑さ指数)の基準値
給水タイムやクーリングブレイクを実施するかどうかの判断基準として使われるのが、「WBGT(暑さ指数)」という指標です。これは気温だけでなく、湿度や日射・輻射などの熱環境を取り入れた指標で、サッカー界ではこの数値が非常に重視されています。
JFAの指針によれば、WBGTが28℃以上31℃未満の場合に「給水タイム」の実施が検討され、31℃以上(場合によっては32℃以上)になると「クーリングブレイク」の実施が原則として義務付けられます。単に「今日は暑そうだから」という主観ではなく、科学的な数値に基づいて決定されています。
この数値は試合開始の約1時間前に計測されることが一般的です。最近ではスマートフォンのアプリなどでも簡単にWBGTを確認できるため、自分の試合や子供の試合がある際には、事前にチェックしておくことで、給水タイムの有無を予測することが可能です。
誰が決めるの?審判とマッチコミッショナーの役割
給水タイムの実施を最終的に判断し、指示を出すのは主審ですが、その前段階ではマッチコミッショナーやドクター、チームの代表者などが協議を行います。プロの試合では運営責任者が測定したWBGT値を基に、両チームの合意を得た上で、試合前に実施の有無を確認し合います。
基本的には、試合前に行われる「マッチコーディネーションミーティング」という会議で、前半と後半に1回ずつ実施する予定であることが共有されます。ただし、試合中に急激に気温が上がった場合などは、審判の判断で柔軟に導入されることもあります。
審判は選手の安全を守る第一の責任者であるため、選手が過度に疲弊している様子が見受けられれば、基準値にわずかに届かなくても給水を行わせる場合があります。このように、ルールは選手の命を守るために柔軟に運用される側面も持っています。
試合時間に与える影響とアディショナルタイムの関係
給水タイムが実施されると、当然ながら試合の時計は止まらずに進んでいきますが、実際にプレーが止まっている時間は「空き時間」となります。そのため、給水タイムやクーリングブレイクで消費された時間は、アディショナルタイム(ロスタイム)として後半や前半の最後に追加されます。
給水タイムなら約1分、クーリングブレイクなら約3分がそのまま加算されるため、暑い日の試合は通常よりも全体の終了時間が遅くなる傾向にあります。これは公平性を保つためのルールであり、リードしているチームが時間稼ぎをするのを防ぐ役割も果たしています。
ファンにとっては、アディショナルタイムが長くなることで、土壇場でのドラマが生まれる可能性も高まります。給水によって体力を回復させた選手たちが、試合終盤に激しい攻防を見せてくれるのは、このルールがあるからこそと言えるかもしれません。
給水タイム中に行ってもよいこと・ダメなこと

給水タイムは単なる水飲み休憩に見えますが、実はその時間中の振る舞いにもルールが存在します。特に公式戦では、不当な利益を得ないように厳しく管理されている部分もあります。選手や指導者が注意すべきポイントを見ていきましょう。
選手はベンチに戻ってもいいの?
原則として、給水タイムにおいて選手はピッチ内、またはタッチライン際で水分を補給しなければなりません。特に短い給水タイムの場合、ベンチまで戻ってしまうと再開に時間がかかるため、スタッフがボトルをピッチ近くまで持っていく形式が一般的です。
一方で、クーリングブレイク(3分間)の場合は、より積極的に体温を下げる必要があるため、ベンチに戻って椅子に座ったり、日陰で休んだりすることが許可されます。この際、大型の扇風機や保冷剤、冷たいタオルなどを使用することも認められています。
給水タイム中に選手が不用意にピッチを離れすぎると、審判から早く戻るよう促されることがあります。スムーズな試合運営を妨げないよう、ルールに則った場所での補給が求められます。これは、試合の緊張感を途切れさせないという意味合いも含まれています。
監督による作戦会議(コーチング)の制限
かつてのルールでは、給水タイム中に監督が選手を集めて戦術的な指示を出すことは制限されていました。給水はあくまで健康管理のためのものであり、戦術的なタイムアウトではないという考え方があったからです。しかし、実態としては水を飲みながら指示を聞く選手が多いため、現在は明確な違反とされることは少なくなっています。
特にクーリングブレイクでは、3分間というまとまった時間があるため、事実上の「作戦タイム」として活用されています。ボードを使って選手を配置し直したり、前半の修正点を伝えたりするシーンは、現代サッカーの夏の風物詩ともなっています。
ただし、給水タイム(1分間)の場合は時間が非常に短いため、指示に集中しすぎて補給がおろそかになったり、試合再開が遅れたりすることは避けなければなりません。審判は、給水が終わり次第すぐに再開できるようコントロールする義務があります。
飲み物以外での体の冷やし方とマナー
給水タイム中、選手は水やスポーツドリンクを飲むだけでなく、頭から水をかぶって体温を下げることもよくあります。これはルール上問題ありませんが、ピッチの状態を悪化させるほど大量に水を撒き散らすことは、マナーの観点から控えるべきとされています。
また、スタッフがピッチ内に入って選手をサポートする場合も、審判の許可が必要です。最近では、スプレーによるミストを浴びせたり、氷の入った袋を渡したりする光景も見られます。これらは選手の安全確保に資する行為として、現代では広く認められるようになっています。
選手同士でボトルを共有することについては、衛生面の観点から推奨されないケースが増えています。特にコロナ禍以降、プロの現場では個人専用のボトルを使用し、他人のものには触れないというルールが徹底されるようになりました。アマチュアの現場でも、こうした配慮は必要不可欠です。
給水タイムはあくまで「選手の健康維持」が最優先です。戦術の確認も大切ですが、まずはしっかりと水分を摂り、呼吸を整えることを忘れないようにしましょう。
Jリーグや育成年代での給水ルールの運用実態

サッカーの給水ルールは、プロレベルと子供たちのレベルでは少し運用の仕方が異なる場合があります。それぞれのカテゴリーにおいて、どのように選手たちの安全が守られているのか、その実態を深掘りしてみましょう。
Jリーグにおける近年の実施状況と対策
Jリーグでは、夏場の全試合においてWBGT計による測定が行われています。スタジアムのピッチレベルは観客席よりも風が通りにくく、芝生の照り返しもあるため、予報よりも高い数値が出やすい傾向にあります。そのため、7月から9月の試合では、ほぼ全ての試合で給水タイムかクーリングブレイクが導入されます。
近年では、観客向けの大型ビジョンに「ただいま給水タイム中です。皆様も水分を補給してください」といった案内が表示されるようになり、スタジアム全体で熱中症への意識を高める工夫がなされています。スポンサー名がついた「飲水タイム」として紹介されることもあり、エンターテインメントの一部として組み込まれている側面もあります。
また、Jリーグ独自の取り組みとして、ハーフタイムの時間を15分から延長する検討がなされたり、キックオフ時間を可能な限り遅らせて(ナイトゲームにして)気温の影響を避けたりといった、ルール以外の面での対策も非常に手厚くなっています。
ジュニア・中高生年代における安全管理の徹底
育成年代のサッカーでは、プロ以上に慎重な判断が求められます。子供は大人よりも体温調節機能が未発達であり、地面に近い位置でプレーするため輻射熱の影響を受けやすいからです。JFAは育成年代の大会において、WBGTが一定の基準を超えた場合、試合の中止や延期も含めた厳しいガイドラインを設けています。
ジュニア年代の試合では、公式ルールの給水タイム(1分)にこだわらず、審判が適宜試合を止めて、選手全員にしっかりと水分を摂らせる運用が一般的です。また、試合時間がプロより短いため、ハーフタイム以外にもクォーター制(15分×4本など)を採用して、頻繁に休憩を挟む形式をとる大会も増えています。
指導者や保護者に対しては、給水タイム以外でも選手が自由に水を飲める環境を作ることが推奨されています。「昔は練習中に水を飲むなと言われた」という考えは今は昔であり、現在は「喉が渇く前に飲む」ことが常識となっています。
アマチュアの試合で注意すべき熱中症対策
社会人リーグや草サッカーなどのアマチュア環境では、プロのような厳密なWBGT測定が行われないことも少なくありません。しかし、審判や運営者が不在がちなアマチュアだからこそ、自分たちでルールを決めて守る自主性が求められます。
例えば、試合前に両チームの主将が話し合い、「今日は暑いので、20分経過したあたりで一度給水を入れましょう」と合意しておくことが大切です。公式な大会でなくても、審判に事前に依頼しておけば、スムーズに中断を挟むことができます。無理をしてプレーを続けることは、チームメイトや相手チームにも迷惑をかける結果になりかねません。
また、ベンチに十分な量の水やスポーツドリンク、氷を用意しておくことも重要です。アマチュアの場合、予備のボトルが足りなくなるトラブルも想定されるため、余裕を持った準備が不可欠です。自分たちの身は自分たちで守るという意識が、夏のサッカーを楽しむための第一歩となります。
夏の大会運営でのチェックポイント
・WBGT計を必ず1台は用意し、こまめに計測する
・試合の合間に選手が休める日陰(テントなど)を確保する
・緊急時に備え、最寄りの医療機関や救急車の手配ルートを確認しておく
サッカー選手の水分補給に適した飲料とタイミング

ルールとして定められた給水タイムを最大限に活かすためには、何をどのように飲むかも非常に重要です。ただ水を飲めば良いというわけではなく、運動強度が高いサッカーならではの補給方法を知っておきましょう。
水だけでは不十分?スポーツドリンクの役割
激しい運動で汗をかくと、水分と一緒に塩分(ナトリウム)などの電解質も体外へ排出されます。この状態で真水だけを大量に摂取すると、血液中の塩分濃度が薄まり、足がつる原因になったり、ひどい場合には「水中毒」と呼ばれる症状を引き起こしたりする可能性があります。
そのため、給水タイムで摂取する飲料は、塩分と適度な糖分が含まれたスポーツドリンクが最適です。糖分はエネルギー源になるだけでなく、水分の吸収を早める働きも持っています。最近では、より吸収効率の高いハイポトニック飲料(低浸透圧飲料)も、アスリートの間で人気があります。
もし真水しか用意できない場合は、塩タブレットや梅干しなどを併用して、塩分を補う工夫をしましょう。ただし、炭酸飲料やカフェインを多く含む飲み物は、胃に負担をかけたり利尿作用を促したりするため、試合中の補給には適していません。
効果的な水分の取り方と摂取量の目安
給水タイムは時間が限られているため、一度に大量の水を流し込むのは避けるべきです。胃に大量の水分が溜まると、再開後に走った際に脇腹が痛くなったり、体が重く感じられたりすることがあります。理想的なのは、「少量をこまめに」口にすることです。
一口ずつ口に含み、転がすようにして飲むことで、口内の渇きを癒やしつつ効率的に体へ吸収させることができます。また、水の温度も重要で、キンキンに冷えた氷水よりも、5℃から15℃程度の少し冷たいと感じる温度が、最も胃を通過しやすく吸収が良いとされています。
給水タイムの1分間で飲む量は、200mlから250ml程度(コップ1杯分くらい)が目安です。これ以上飲むと、直後の激しい動きに支障が出る可能性があります。自分にとって適度な量を知るために、日頃の練習から自分の体調と相談しながら飲む練習をしておくと良いでしょう。
試合前と試合後のリカバリーに必要な補給
実は、給水タイムでの補給をスムーズにするためには、試合前の「プレハイhydration(事前補給)」が欠かせません。試合開始の段階ですでに体が軽く脱水状態にあると、給水タイムでいくら飲んでも追いつかなくなります。試合の2時間前から少しずつ水分を摂り始め、尿の色が透明に近くなる状態にしておくのが理想です。
また、試合が終わった後の補給は、翌日以降の疲労回復に直結します。試合中に失われた体重の約1.5倍の水分を、数時間かけて補給するのが良いとされています。試合後はプロテインでタンパク質を補給する選手も多いですが、その際も水分をしっかり摂ることで、栄養の運搬がスムーズになります。
夏の試合後は、知らず知らずのうちに内臓も疲弊しています。冷たい飲み物ばかりでなく、常温の飲み物や温かい食事を摂ることで、内臓の機能を回復させることも、一流のサッカー選手になるための大切な自己管理の一つです。
観戦者も知っておきたい給水タイムの楽しみ方

給水タイムは選手だけのものではありません。スタジアムやテレビで観戦しているファンにとっても、この中断時間は重要な意味を持ちます。観戦をより快適に、そして深く楽しむためのポイントを紹介します。
試合の流れが止まるメリットとデメリット
サッカーにおいて、給水タイムは「試合の流れ(モーメンタム)」を大きく変えるきっかけになります。攻勢を強めていたチームにとっては、中断によって相手に立て直す時間を与えてしまうというデメリットがあります。逆に、防戦一方だったチームにとっては、一息ついて守備の組織を整理する絶好のチャンスとなります。
観戦する際は、給水タイムが終わった直後の数分間に注目してみてください。休止前とは全く違う戦術を仕掛けてきたり、選手の配置が入れ替わっていたりすることがあります。監督が選手にどのような声をかけていたかを想像しながら見ると、戦術的な面白さが倍増します。
「この給水でどちらが有利になるか?」という視点を持つと、中断時間も退屈な待ち時間ではなく、次なるドラマへのプロローグとして楽しむことができます。実況や解説者のコメントも、このタイミングで深くなることが多いので、聞き逃せません。
給水タイム中に観客ができる熱中症対策
選手が給水を必要とする環境であれば、スタンドで見ている観客も同様に危険な状態にあります。審判のホイッスルで給水タイムが始まったら、それは観客にとっても水分補給の合図です。「自分は動いていないから大丈夫」と過信せず、周囲の人と声を掛け合って水を飲みましょう。
スタジアムはコンクリートの照り返しや人の密集により、予報以上の熱気がこもります。給水タイムのわずかな時間を利用して、帽子を被り直したり、冷却シートを貼り替えたりするのも有効です。また、日傘の使用が制限されているスタンドでは、タオルを頭から被るだけでも直射日光を遮る効果があります。
もし体調に異変を感じたら、この中断時間を利用して近くのスタッフに声をかけるか、救護室を確認しましょう。試合が動いている最中は席を立ちにくいものですが、給水タイム中であれば移動もしやすく、周りの目も気になりません。安全第一での観戦を心がけましょう。
プロの試合での演出やスタジアムの配慮
最近のJリーグなどの興行では、給水タイムをネガティブな「中断」ではなく、ポジティブな「演出の時間」として活用する動きがあります。オーロラビジョンでスポンサーのCMを流したり、マスコットキャラクターがパフォーマンスを行ったりと、観客を飽きさせない工夫が随所に見られます。
また、スタジアムによっては、給水タイムに合わせてミストを噴射する設備を稼働させたり、売店での飲み物の販売を強化したりすることもあります。給水タイムがあることを前提とした観戦スタイルが定着しつつあるのです。
ルールを知ることは、単に決まりごとを覚えるだけでなく、その背景にある「安全への配慮」や「競技の公平性」を理解することに繋がります。給水タイムというルールが、サッカーというスポーツをより持続可能で、魅力的なものにしていることを感じながら、これからも熱い戦いを応援していきましょう。
テレビ観戦の場合、給水タイムはリプレイ映像やスタッツ(統計データ)を確認する良い機会です。前半のシュート数や支配率をチェックして、後半の展開を予想してみましょう。
まとめ:サッカーの給水タイムのルールを理解して安全にプレー・観戦しよう
サッカーの給水タイムは、単なる休息時間ではなく、WBGT(暑さ指数)という科学的な基準に基づいて運用される重要なルールです。WBGTが28℃を超えると給水タイム、31℃を超えるとクーリングブレイクが実施され、選手の安全を最優先に試合が進行されます。
これらのルールによって中断された時間は、正確に計測されてアディショナルタイムとして加算されます。そのため、試合の公平性が保たれるだけでなく、終盤に体力を回復した選手たちによる熱い攻防が繰り広げられる要因にもなっています。選手にとっては貴重な補給と戦術確認の場であり、監督にとっては流れを変えるチャンスとなります。
私たちファンやプレーヤー、そして保護者も、この給水タイムのルールを正しく理解しておくことが大切です。適切な飲料を選び、正しいタイミングで補給することは、熱中症を防ぐだけでなく、最高のパフォーマンスを発揮するための鍵となります。この記事で紹介した知識を活かして、夏場の厳しい環境下でも、安全に、そして熱くサッカーを楽しみましょう。




