サッカー観戦をしていると、「DOGSO(ドグソ)」という言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか。これは「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の略で、日本語では「決定的な得点機会の阻止」と訳されます。 この反則を犯すと、原則としてレッドカードが提示され、選手は退場処分を受けます。
世界最高峰のリーグであるプレミアリーグでは、一つのプレーが試合結果を大きく左右するため、DOGSOの判定は特に注目されます。退場者が出るとチームは数的不利に陥り、さらに後日の試合にも出場停止という形で影響が及びます。 この記事では、プレミアリーグでプレーする選手やチーム、そしてファンが知っておくべきDOGSOのルール、出場停止の期間、そして具体的な事例について、サッカー初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
DOGSO(ドグソ)とは?プレミアリーグでの出場停止につながる重大な反則
DOGSOは、サッカーの試合において非常に重要なルールの一つです。 得点というサッカーの根幹を揺るがす不正なプレーを防ぐために設けられており、適用された場合は試合の流れを大きく変える可能性があります。 ここでは、DOGSOの基本的な定義から、どのようなプレーが該当するのか、そしてなぜ厳しい罰則が科されるのかを詳しく見ていきましょう。
DOGSOの定義:「決定的な得点機会の阻止」
DOGSOは、その名の通り「相手チームの決定的な得点のチャンスを、反則によって阻止する行為」を指します。 英語の「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の頭文字をとってDOGSOと呼ばれています。 例えば、ゴールキーパーと1対1の状況になった相手選手を、後ろからファウルで倒してしまうようなプレーが典型例です。 このルールは、1980年代に意図的なファウル(プロフェッショナル・ファウル)が増加したことを受け、サッカーの魅力を損なわないようにするために1990年のイタリア・ワールドカップから導入されました。 その後、2007年に独立した項目となり、近年VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されたことで、より正確な判定が可能になり、ファンやサポーターの間でも議論される機会が増えています。
DOGSOが成立する4つの要件
DOGSOと判定されるためには、単にファウルを犯しただけではなく、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。 主審はこれらの要素を総合的に判断して、DOGSOが適用されるかどうかを決定します。
- 反則とゴールとの距離:反則が起きた場所がゴールに近いほど、DOGSOと判断されやすくなります。明確な距離の基準はありませんが、ペナルティエリア付近が一つの目安です。
- プレーの方向:攻撃側の選手が、全体的にゴールに向かってプレーしている必要があります。 ゴールに背を向けている状態などでは、適用されにくいです。
- ボールをコントロールできる可能性:反則がなければ、攻撃側の選手がボールをコントロールし、シュートに持ち込めた可能性が高い状況でなければなりません。
- 守備側競技者の位置と数:反則した選手の他に、そのプレーをカバーできる味方の守備選手が近くにいない状況であることも重要な要素です。
これらの要件が一つでも欠けていると判断された場合、DOGSOとはならず、後述する「SPA(大きなチャンスの阻止)」としてイエローカードの対象になることがあります。
なぜDOGSOは厳しい罰則の対象になるのか?
DOGSOに厳しい罰則が科される理由は、サッカーという競技の根幹である「得点」を不正な手段で妨げる行為だからです。 サッカーの試合では1点の重みが非常に大きく、決定的な得点チャンスをファウルで潰す行為は、試合の結果を不当に操作することにつながりかねません。 もし軽い罰則であれば、「1点を取られるくらいならファウルで止めてしまおう」という考えが横行し、試合の魅力が大きく損なわれてしまいます。 そのため、DOGSOを犯した選手には原則としてレッドカードが提示され、即時退場とすることで、プレーヤーに高い規律を求め、フェアプレーの精神を維持しようとしているのです。 この厳しい罰則は、戦術的なファウルに対する強力な抑止力として機能しています。
DOGSOの罰則:レッドカードと出場停止の基本ルール
DOGSOを犯してしまった場合、選手には厳しい罰則が科されます。基本的にはレッドカードによる即時退場となり、チームは残りの時間を10人で戦うことを余儀なくされます。 それに加えて、次の試合以降にも出場できなくなる「出場停止」処分が待っています。プレミアリーグでの具体的な出場停止試合数や、かつて問題視された「三重罰」について解説します。
即時退場となるレッドカード
DOGSOの4要件を満たすと判断されたファウルに対しては、原則としてレッドカードが提示され、選手は即時退場となります。 プレミアリーグをはじめとするサッカーのルールでは、レッドカードは最も重い懲戒措置であり、提示された選手はその試合にそれ以上出場することはできません。
ただし、例外も存在します。例えば、DOGSOに該当するファウルがあったものの、主審がアドバンテージを適用し、結果的に攻撃側が利益を得た(シュートを打てたなど)と判断された場合は、レッドカードではなくイエローカードが提示されることがあります。 これは、ファウルの目的である「決定機の阻止」が結果的に達成されなかったとみなされるためです。
プレミアリーグにおける出場停止試合数
プレミアリーグ(イングランドサッカー協会/FAの規定)において、レッドカードによる出場停止試合数は、その反則の内容によって異なります。
退場の理由 | 出場停止試合数(目安) |
---|---|
イエローカード2枚による退場 | 1試合 |
DOGSO(決定的な得点機会の阻止) | 1試合 |
著しく不正なプレー(危険なタックルなど) | 3試合 |
乱暴な行為(暴力行為) | 3試合 |
相手につばを吐きかける行為 | 6試合 |
表からもわかるように、DOGSOによる一発退場の場合、基本的な出場停止は1試合です。 これはイエローカード2枚による退場と同じ試合数です。一方で、相手選手を危険にさらすような悪質なプレーや暴力行為には、より長い出場停止処分が科されることになります。
「三重罰」とは?ルール改正の歴史
かつてDOGSO、特にペナルティエリア内でのプレーには「三重罰」と呼ばれる非常に厳しい罰則が科されていました。
1. PK献上:相手チームにペナルティキックが与えられる
2. 退場:ファウルを犯した選手はレッドカードで退場
3. 次節出場停止:退場に伴い、次の試合に出場できない
この「一つのプレーに対して罰が過剰すぎる」という点が長年問題視されていました。 例えば、ゴールを守るために必死にボールにチャレンジした結果、わずかに相手を倒してしまったようなケースでも、DOGSOの条件が揃えばこの三重罰が適用されていたのです。
この状況を改善するため、2016年に国際サッカー評議会(IFAB)によってルールが改正されました。 現在では、ペナルティエリア内でボールにプレーしようと試みた(ボールにチャレンジした)結果のDOGSOについては、罰則がレッドカードからイエローカードに軽減されることになりました。 これにより、PKは与えられるものの、退場や出場停止は免れることになります。 ただし、相手選手を意図的に押したり、引っ張ったり、あるいはボールにプレーする意思のない危険なタックルなど、悪質なファウルの場合は、現在でも三重罰が適用され、レッドカードの対象となります。
DOGSOの判断基準と具体的なプレー
DOGSOの判定は、前述の4要件に基づいて行われますが、実際の試合では非常に複雑で、一瞬の判断が求められます。ファウルが起きた場所や、反則の種類によっても罰則が変わることがあります。ここでは、DOGSOの判断における具体的なポイントを掘り下げて見ていきましょう。
ファウルの場所(ペナルティエリア内外)による違い
DOGSOの判定において、ファウルがペナルティエリアの内側で起きたか、外側で起きたかは非常に重要なポイントです。
- ペナルティエリア外でのDOGSO
ペナルティエリアの外側でDOGSOに該当するファウルを犯した場合、攻撃側に直接フリーキックが与えられ、ファウルを犯した選手は原則としてレッドカードで退場となります。この場合、前述した「三重罰の緩和」は適用されません。 - ペナルティエリア内でのDOGSO
ペナルティエリアの内側でDOGSOを犯した場合、状況は少し複雑になります。- ボールにチャレンジした結果のファウル: 攻撃側の選手と競り合い、ボールを奪おうとした結果として相手を倒してしまったような場合、これは「ボールへの試み」と見なされます。このケースでは、相手チームにペナルティキック(PK)が与えられますが、カードはイエローカードに軽減されます。
- ボールにチャレンジする意図のないファウル: 相手のユニフォームを引っ張る、手で押す、あるいは明らかにボールではなく相手を狙ったタックルなど、ボールにプレーする意図がないと判断された場合は、悪質な行為とみなされます。この場合はPKが与えられるのに加え、レッドカードが提示され、退場処分となります。
ハンドによるDOGSOのケース
フィールドプレーヤーが手や腕を使って相手の決定的な得点機会を阻止する「ハンド」もDOGSOの対象となります。
- ペナルティエリア外でのハンド
ペナルティエリアの外で、意図的かどうかに関わらずハンドの反則で決定機を阻止した場合、レッドカードが提示されます。 - ペナルティエリア内でのハンド
ペナルティエリア内でハンドによって決定機を阻止した場合、これまでは場所に関わらず退場とされていました。 しかし、2024年の競技規則改正により、ペナルティエリア内でPKとなるハンドの反則が意図的でない場合は、退場ではなく警告(イエローカード)が与えられることになりました。 もちろん、意図的に手を使ってゴールを防いだ場合は、これまで通りレッドカードの対象です。 これは、ウルグアイ代表のルイス・スアレス選手が2010年ワールドカップで見せたような、意図的なハンドによるゴール阻止のようなプレーを防ぐための厳しい規定です。
意図的かどうかの判断は重要か?
DOGSOの判定において、「ファウルが意図的だったかどうか」は必ずしも最も重要な要素ではありません。重要なのは、そのプレーが結果として「決定的な得点機会を阻止したか」どうかという客観的な事実です。
ただし、前述の「三重罰の緩和」ルールにおいては、意図が考慮されます。ペナルティエリア内でのファウルが、ボールを奪おうとする「意図」のあるプレー(ボールへのチャレンジ)だったのか、それとも相手を止めることだけが「意図」のプレーだったのかによって、カードの色(イエローかレッドか)が変わってきます。 このように、DOGSOのルールは単に反則の有無を見るだけでなく、その状況やプレーの意図まで含めて総合的に判断される、非常に奥深いものなのです。
プレミアリーグでのDOGSO事例
厳しいルールや基準を理解した上で、実際の試合でどのようにDOGSOが判定されているのかを見ることは、理解を深める上で非常に役立ちます。世界最高峰の選手たちが激しくぶつかり合うプレミアリーグでは、DOGSOを巡る判定がたびたび議論の的となってきました。ここでは、近年の事例やVARの役割について見ていきましょう。
近年の注目されたDOGSOの判定
プレミアリーグでは、毎シーズンのようにDOGSOによる退場劇が繰り広げられ、試合の勝敗を大きく左右しています。
例えば、2023年8月に行われたニューカッスル対リヴァプールの試合では、リヴァプールのDFフィルジル・ファン・ダイク選手が相手FWアレクサンデル・イサク選手を倒し、一発退場となりました。 このプレーは、ファン・ダイク選手がボールに触れていたのではないかという点で物議を醸しましたが、元プレミアリーグの審判員は「ボールを奪う前にイサクを飛ばしており、激しく軽率なチャレンジで、明らかにDOGSOのケースだった」と判定の正当性を主張しています。 このように、トップレベルの攻防の中では、わずかなタイミングのズレがDOGSOと判定されるか否かの分かれ目になります。
また、2022年のマンチェスター・シティの試合では、ペナルティエリア内でDFが相手選手を倒したプレーに対し、VARの介入によってDOGSOと判定され、レッドカードが提示されたケースもありました。 これらの事例は、DOGSOの判定がいかに難しく、時に議論を呼ぶものであるかを示しています。
日本人選手に関連する事例
プレミアリーグで活躍する日本人選手も、DOGSOの判定とは無縁ではありません。直接的なDOGSOでの退場事例は多くありませんが、カードの判定を巡る厳しい状況は常に存在します。
例えば、アーセナルの冨安健洋選手は、2023-24シーズンのクリスタル・パレス戦で2枚のイエローカードを受けて退場となりました。この時の2枚目のイエローカードは、相手選手を軽く押したプレーに対するもので、DOGSOではありませんでしたが、非常に厳しい判定として大きな話題を呼びました。プレミアリーグでは、少しの接触でもファウルと見なされ、それが決定機阻止の状況であればDOGSOにつながる可能性があるという厳しさを示唆する出来事でした。
このように、世界最高レベルのスピードとフィジカルが求められるプレミアリーグでは、日本人選手も常にカードのリスクと隣り合わせでプレーしているのです。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入と判定の変化
近年、DOGSOの判定に最も大きな影響を与えているのがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の存在です。 VARは、「はっきりとした、明白な間違い」があった場合に介入し、主審に映像の確認を促します。DOGSOの判定は、レッドカードという試合を左右する重大な判定に直結するため、VARのレビュー対象となります。
VARの導入により、以前よりもDOGSOの判定精度は向上しました。 主審の死角で起きたプレーや、一瞬の出来事で見極めが困難だったプレーも、スロー映像で多角的に確認できるようになったからです。 主審がDOGSOと判断しなかったプレーがVARの介入でレッドカードに変わることもあれば、逆に主審が提示したレッドカードが「正当なボールチャレンジだった」としてイエローカードに軽減されたり、ノーファウルになったりするケースもあります。 これにより、判定の公平性は高まりましたが、同時にレビューにかかる時間や、どのプレーに介入すべきかといった新たな議論も生まれています。
DOGSOと他の反則との違い
サッカーにはDOGSO以外にも、カードが提示される様々な反則があります。特にDOGSOと混同されやすいのが「SPA(スパ)」や、「著しく不正なプレー」です。これらの反則との違いを理解することで、なぜあるプレーはレッドカードになり、別の似たようなプレーはイエローカードで済むのかが、より明確になります。
SPA(スパ):「大きなチャンスの阻止」との違い
SPAは「Stopping a Promising Attack」の略で、日本語では「大きなチャンスとなる攻撃の阻止」と訳されます。
DOGSOが「決定的な得点機会」を阻止する行為であるのに対し、SPAはそれよりも一段階下の「有望な攻撃の芽を摘む」ための反則です。
例えば、カウンター攻撃を受け、相手選手がドリブルで駆け上がってきたとします。しかし、ゴールまではまだ距離があり、味方のディフェンダーも戻りつつある状況でファウルを犯した場合、これは「決定的な」機会とは言えず、DOGSOには該当しません。しかし、そのまま進ませていれば「大きなチャンス」になっていた可能性は高いため、SPAが適用され、イエローカードが提示されます。 つまり、SPAは「DOGSOの一歩手前」の反則と考えると分かりやすいでしょう。
項目 | DOGSO(決定的な得点機会の阻止) | SPA(大きなチャンスの阻止) |
---|---|---|
略称 | Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity | Stopping a Promising Attack |
定義 | 決定的な得点機会を反則で阻止する行為 | 大きなチャンスとなる攻撃を反則で阻止する行為 |
適用条件 | 4つの要件をすべて満たす必要がある | 4要件の一部が満たされないが、有望な攻撃を阻止したと判断された場合 |
罰則 | レッドカード(原則) | イエローカード |
著しく不正なプレー(Serious Foul Play)との違い
「著しく不正なプレー」は、DOGSOとは全く異なる観点で判断される反則です。これは、プレーの状況(決定機かどうか)に関わらず、タックルそのものが相手選手の安全を脅かすほど危険であると判断された場合に適用されます。
例えば、スパイクの裏を見せて相手のすねにタックルしたり、ボールではなく明らかに相手の足を狙った過剰な力でのスライディングタックルなどが該当します。 このようなプレーは、たとえ自陣の深い位置でのプレーで、全く得点チャンスとは関係ない場面であっても、その危険性からレッドカードの対象となります。
プレミアリーグでは、DOGSOによる退場よりも、「著しく不正なプレー」による退場の方が、出場停止期間が長く設定されるのが一般的で、通常3試合の出場停止となります。
異議や侮辱行為による退場との違い
選手が退場になるのは、プレー中の反則だけではありません。審判に対する攻撃的、侮辱的な、または下品な発言や身振りをした場合も、レッドカードの対象となります。
例えば、判定に不服を唱えて審判に暴言を吐いたり、侮辱的なジェスチャーをしたりする行為がこれにあたります。これはプレーの文脈とは関係なく、スポーツマンシップに反する行為として厳しく罰せられます。この場合の出場停止期間も、行為の悪質性に応じて決定されますが、通常は3試合以上となる可能性があります。
DOGSOが「プレーの結果」に焦点を当てているのに対し、これらの反則は「行為そのものの悪質性や非紳士的な態度」が問題視されるという点で、根本的に性質が異なります。
まとめ:DOGSOによる出場停止を理解してプレミアリーグをさらに楽しもう
この記事では、「dogso 出場停止 プレミアリーグ」というキーワードを軸に、サッカーの重要なルールであるDOGSOについて、その定義から罰則、具体的な事例までを詳しく解説してきました。
- DOGSOは「決定的な得点機会の阻止」を意味し、4つの要件(距離、方向、ボールのコントロール、守備者の数)をすべて満たした場合に適用されます。
- DOGSOを犯すと原則レッドカードで退場となり、プレミアリーグでは通常1試合の出場停止処分が科されます。
- ペナルティエリア内でのDOGSOは、かつて「三重罰」として問題視されましたが、ルール改正により、ボールにチャレンジした結果のファウルはイエローカードに軽減されるようになりました。
- VARの導入により判定の精度は向上しましたが、依然としてDOGSOの判定は試合の大きな論点の一つです。
- DOGSOと似た状況で適用されるSPA(大きなチャンスの阻止)はイエローカードの対象となり、その違いを理解することが重要です。
DOGSOのルールを深く知ることで、なぜ主審がレッドカードを提示したのか、あるいはなぜイエローカードで済んだのかといった判定の背景が理解できるようになります。 これにより、プレミアリーグの試合観戦がさらに面白く、奥深いものになるはずです。次にDOGSOかもしれないというシーンに遭遇した際は、ぜひこの記事で解説した4つの要件を思い出しながら、判定の行方を見守ってみてください。
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