プレミアリーグのイングランド人規定とは?ホームグロウン制度をわかりやすく解説

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世界最高峰のサッカーリーグと称されるイングランドのプレミアリーグ。華やかな舞台には、世界中からスター選手が集結します。しかし、その裏側には「プレミアリーグのイングランド人規定」とも呼ばれる、独自の選手登録ルールが存在することをご存知でしょうか?それが「ホームグロウン制度」です。

この制度は、単にイングランド人選手を優遇するためのものではなく、もっと深い目的を持って導入されました。この記事では、サッカーを愛する皆さんが、プレミアリーグをさらに深く楽しむために知っておきたい「ホームグロウン制度」について、その仕組みからブレグジットによる影響、そしてチーム戦略に与えるインパクトまで、やさしく丁寧に解説していきます。この規定を知ることで、移籍市場のニュースや各チームの選手起用が、まったく違って見えてくるはずです。

 

プレミアリーグのイングランド人に関する規定「ホームグロウン制度」とは?

プレミアリーグには、一般的にイメージされる「外国人枠」という明確な括りは存在しません。 その代わりに、国内で育成された選手を保護・奨励することを目的とした「ホームグロウン制度(Home Grown Player Rule)」という独自の規定が設けられています。 これは、国籍で選手を区別するのではなく、その選手がどこで育ってきたかという「育成歴」に焦点を当てたユニークなルールです。この制度があることで、各クラブは国外からスター選手をただ集めるだけでなく、自国での選手育成にも力を入れることが求められます。

ホームグロウン制度の基本的なルール

ホームグロウン制度の最も重要なルールは、各クラブが登録できる25人のトップチーム選手(スカッドリスト)のうち、最低8人はホームグロウン選手でなければならないというものです。

もし、クラブが8人のホームグロウン選手を確保できなかった場合、その不足した人数分だけ、トップチームの登録枠全体が削減されます。 例えば、ホームグロウン選手が6人しかいないチームは、トップチームの登録選手数が25人から2人減って23人になってしまいます。 つまり、ホームグROwn以外の選手(非ホームグロウン選手)は最大でも17人までしか登録できない仕組みです。

このルールにより、クラブはシーズンを通して安定した戦力を維持するために、必然的にホームグロウン選手の確保を重要視することになります。ただ強い選手を集めるだけでなく、育成組織の充実や国内の若手発掘が、チーム強化の重要な要素となっているのです。

「ホームグロウン選手」の定義とは?国籍は関係ない?

「ホームグロウン選手」と聞くと、「イングランド国籍の選手」とイコールだと考えてしまいがちですが、実はそうではありません。この制度の最も特徴的な点は、国籍を一切問わないということです。

ホームグロウン選手として認定されるための条件は、ただ一つです。

21歳の誕生日を迎えるシーズンが終わるまでに、イングランドまたはウェールズのクラブに、継続または通算で3シーズン(36ヶ月)以上在籍していること

この条件さえ満たせば、例えばスペイン人やブラジル人の選手であっても、ホームグロウン選手として扱われます。実際に、ベルギー代表のロメル・ルカク選手や、スペイン人のセスク・ファブレガス選手(元アーセナル、チェルシーなど)は、10代でイングランドのクラブに加入し、長期間プレーしたためホームグロウン選手の資格を持っています。

この定義からもわかるように、制度の趣旨はイングランド人選手を増やすことだけが目的ではなく、あくまでイングランドのサッカー環境で育った選手を大切にしようという点にあります。

なぜこの制度が導入されたのか?その背景と目的

ホームグロウン制度は、2010-11シーズンから導入されました。 その背景には、プレミアリーグの国際化が進むにつれて、イングランド人の若手選手の出場機会が減少し、イングランド代表チームの国際競争力が低下することへの懸念がありました。

制度導入の主な目的は以下の通りです。

  • 国内選手の育成促進: クラブに自国での選手育成を促し、若手にトップチームでプレーするチャンスを与えること。
  • イングランド代表の強化: 長期的に見て、国内で育った優秀な選手を増やすことで、代表チームのレベルアップにつなげること。
  • 国内選手の海外流出防止: 有望な若手選手が、出場機会を求めて他国のリーグへ移籍してしまうのを防ぐこと。

資金力のあるクラブが世界中からスター選手を買い集めるだけでなく、自らの手で選手を育てる文化を根付かせようという狙いがあります。これにより、リーグ全体の持続的な発展と、代表チームの強化という二つの大きな目標を達成しようとしているのです。

選手登録の仕組みとスカッドリスト

プレミアリーグでシーズンを戦うためには、各クラブは定められたルールに則って選手を登録しなければなりません。この選手登録リストは「スカッドリスト」と呼ばれ、ホームグロウン制度と密接に関係しています。ここでは、その具体的な仕組みについて見ていきましょう。

25人の登録枠の構成

プレミアリーグの各クラブは、シーズンを戦うトップチームの選手として、最大25人を登録することができます。 この25人の内訳が、ホームグロウン制度によって規定されています。

選手の種類 登録人数の上限 備考
ホームグロウン選手 8人以上 この人数を満たさないと、全体の登録枠が減る
非ホームグロウン選手 最大17人 国籍や育成地に関わらない選手
合計 最大25人

前述の通り、ホームグROwn選手を8人登録することが、25人という最大の登録枠をフルに活用するための条件となります。 もしホームグロウン選手が8人に満たない場合は、非ホームグロウン選手の17人枠はそのままに、全体の枠が減らされる仕組みです。 例えば、アーセナルに所属していたメスト・エジル選手が2020-21シーズンに登録外となったのは、この非ホームグロウン選手の枠が埋まってしまったことが一因でした。 このように、クラブの補強戦略は常にこの25人枠の構成を意識して行われています。

U-21選手の扱いはどうなる?

ホームグロウン制度には、若手選手の出場機会を確保するための非常に重要な例外規定があります。それは、21歳以下の選手(U-21選手)の扱いです。

シーズン開幕の年に21歳以下の選手は、上記の25人の登録枠とは別で、無制限に登録・起用することができます。

このルールがあるため、クラブは将来有望な若手選手をトップチームの試合で積極的に試すことが可能です。例えば、マンチェスター・シティのフィル・フォーデン選手やアーセナルのブカヨ・サカ選手のような、クラブのアカデミー出身の若きスター選手たちは、この規定の恩恵を受けながらトップチームでの経験を積み、世界的な選手へと成長していきました。

このU-21選手の別枠登録は、クラブにとっては戦力的な柔軟性を高めるメリットがあり、若手選手にとってはトップレベルでの貴重な実戦機会を得られるという、双方にとって有益な仕組みと言えるでしょう。

登録メンバーの提出時期と変更の可否

各クラブは、この25人のスカッドリストを年に2回、プレミアリーグに提出しなければなりません。

  1. 夏の移籍市場終了後(9月上旬頃)
  2. 冬の移籍市場終了後(2月上旬頃)

一度提出されたリストは、次の登録期間まで原則として変更することはできません。つまり、夏に登録されなかった選手は、少なくとも冬の移籍市場が開くまでプレミアリーグの試合には出場できないということになります。

ただし、ゴールキーパーに長期の負傷者が出た場合など、特別な状況下では緊急の選手登録が認められる例外もあります。この厳格な登録制度があるからこそ、各クラブは夏の移籍市場でシーズン前半を、冬の移籍市場でシーズン後半を見据えた、計画的なチーム編成を行う必要があるのです。

ブレグジットがもたらした大きな変化

2021年1月、イギリスがEU(欧州連合)から正式に離脱した、いわゆる「ブレグジット」は、プレミアリーグの選手獲得ルールにも大きな変化をもたらしました。 これまでは比較的自由だったEU圏内選手の移籍に、新たなハードルが設けられることになったのです。この変更は、ホームグロウン制度と並んで、現在のプレミアリーグの移籍市場を理解する上で欠かせない要素です。

EU圏選手の扱いが変わった

ブレグジット以前、プレミアリーグのクラブはEU加盟国およびEFTA(欧州自由貿易連合)加盟国の国籍を持つ選手を、イギリス人選手とほぼ同様に、労働許可証なしで自由に獲得することができました。 しかし、ブレグジットによってこの「移動の自由」の原則が適用されなくなり、EU圏の選手も、それ以外の国(例えば日本やブラジルなど)の選手と同じように、イギリスでプレーするための労働許可証が必要になったのです。

これにより、これまで青田買いのように獲得できていたEU圏の若い才能ある選手を、簡単にはイングランドに連れて来られなくなりました。例えば、2015年にフランスのカーンからレスター・シティに移籍し、後に世界的なスター選手となったエンゴロ・カンテ選手のようなケースは、現在のルールでは移籍が認められなかった可能性が高いと指摘されています。 この変化は、各クラブのスカウティング戦略や若手選手の獲得方針に、大きな見直しを迫るものとなりました。

新たな労働許可証「GBE」とは?

ブレグジット後の新しいルールで、外国籍選手がプレミアリーグでプレーするために必要となったのが「GBE(Governing Body Endorsement)」と呼ばれる、イングランドサッカー協会(FA)が発行する推薦状です。 これが実質的な労働許可証の役割を果たします。

GBEを取得するためには、選手が一定の基準を満たしていることを証明しなければなりません。この基準は、主に選手の国際的な実績や経験に基づいており、「プレミアリーグでプレーするにふさわしい、質の高い選手である」ことを客観的に示すためのものです。 GBE制度は、プレミアリーグだけでなく、チャンピオンシップ(2部)以下のイングランドのプロリーグでプレーするすべての外国籍選手に適用されます。

GBE取得のポイント制度の仕組み

GBEが発行されるかどうかは、ポイント制によって判断されます。 選手は、自身の経歴に応じてポイントを獲得し、合計で15ポイント以上を獲得すれば、原則として自動的にGBEが発行されます。

ポイントが付与される主な項目は以下の通りです。

  • A代表での国際試合出場数・出場時間: 代表チームでの実績は非常に重視されます。
  • 所属クラブでのリーグ戦出場時間: どれだけコンスタントに試合に出ているかが評価されます。
  • 所属クラブの大陸選手権(UEFAチャンピオンズリーグなど)での出場時間: ハイレベルな大会での経験も重要です。
  • 所属クラブの最終リーグ順位: 強いチームでプレーしていることが評価されます。
  • 所属クラブが在籍しているリーグの質: リーグのレベルが「Band」としてランク分けされており、上位リーグほど高いポイントが得られます。

例えば、世界トップクラスのリーグ(プレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガ、セリエA、リーグ・アン)でレギュラーとしてプレーし、代表チームにも選出されているような選手は、比較的容易に15ポイントをクリアできます。 一方で、若い選手や代表経験の少ない選手にとっては、このポイント獲得がプレミアリーグ移籍への大きな壁となるのです。

ホームグロウン制度がチームや選手に与える影響

ホームグロウン制度とブレグジット後のGBE制度は、プレミアリーグの各クラブのチーム編成、移籍市場、そして選手個人のキャリアにまで、多岐にわたる影響を及ぼしています。これらの規定は、単なるルールに留まらず、リーグ全体の生態系を形作る重要な要素となっているのです。

イングランド人選手の価値高騰

ホームグロウン制度の最も顕著な影響の一つが、イングランド人選手(特に質の高いホームグロウン選手)の市場価値の高騰です。

前述の通り、トップクラブは25人の登録枠を最大限に活用するために、最低8人のホームグロウン選手を確保する必要があります。しかし、チャンピオンズリーグなど高いレベルでの戦いを見据えるクラブは、単に数を揃えるだけでなく、「トップレベルで通用する実力を持った」ホームグロウン選手を求めます。

この需要に対して、供給(トップレベルの実力を持つホームグロウン選手)は限られているため、希少価値が生まれます。その結果、デクラン・ライス選手やジャック・グリーリッシュ選手のように、実力あるホームグロウン選手の移籍金は、同等レベルの外国籍選手と比較して非常に高額になる傾向があります。 これは「ホームグロウン・プレミアム」とも呼ばれ、移籍市場における一つの特徴となっています。

クラブの選手獲得戦略への影響

ホームグロウン制度とGBE制度は、クラブの選手獲得戦略をより複雑で計画的なものにしています。

まず、長期的な視点でのスカッド管理が不可欠です。非ホームグロウン選手の枠(最大17人)は限られているため、誰を獲得し、誰を放出するのか、常に枠の空き状況を計算しながら動かなければなりません。

また、若手選手の獲得戦略も大きく変化しました。ブレグジット以前のように、EU圏から10代の才能ある選手を安価で獲得し、自クラブでホームグロウン選手として育てるという戦略が難しくなりました。そのため、国内のアカデミー(育成組織)の重要性が一層高まっています。自前で優秀な若手を育て上げることが、将来的なホームグROwn枠を確保し、高騰する移籍金を節約する上で極めて効果的な手段となるのです。

若手選手の育成と出場機会

ホームグロウン制度の根幹にあるのは、若手選手、特にイングランドで育った選手の育成と出場機会の確保です。

U-21選手の登録枠外ルールは、アカデミー出身の若手選手がトップチームの試合に出場する大きな後押しとなっています。 クラブ側も、将来のホームグロウン枠を埋めるため、また高額な移籍金を支払わずに戦力を確保するために、アカデミーへの投資を重視するようになりました。

これにより、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)、トレント・アレクサンダー=アーノルド(リヴァプール)、ブカヨ・サカ(アーセナル)といった、クラブ生え抜きの選手がチームの中心として活躍するケースが増えています。これは、制度が目指した「国内育成の促進」という目的が、一定の成果を上げている証拠と言えるでしょう。ファンにとっても、自分のクラブで育った選手がスターダムにのし上がる姿を見ることは、大きな喜びとなっています。

まとめ:プレミアリーグのイングランド人規定と今後の展望

この記事では、「プレミアリーグのイングランド人規定」ともいわれるホームグロウン制度を中心に、選手登録のルールやブレグジットがもたらした変化について解説してきました。

重要なポイントを振り返ってみましょう。

  • プレミアリーグには国籍で制限する「外国人枠」はなく、代わりに「ホームグロウン制度」が採用されています。
  • ホームグロウン選手とは、国籍を問わず、21歳までに3年以上イングランドかウェールズのクラブで育成された選手を指します。
  • 各クラブはトップチームの登録枠25人のうち、最低8人をホームグロウン選手にする必要があり、これがチーム編成の根幹をなしています。
  • ブレグジットにより、EU圏の選手も労働許可証(GBE)が必要となり、若手選手の獲得が以前より難しくなりました。
  • これらの規定は、イングランド人選手の市場価値を高騰させ、各クラブにアカデミーでの若手育成を重視させる大きな要因となっています。

ホームグロウン制度は、世界中から才能が集まるプレミアリーグの国際的な魅力を維持しつつ、自国のサッカーの未来を守るための重要な仕組みです。このルールを理解することで、移籍市場のニュースの裏側にあるクラブの戦略や、若手選手の起用の意図などをより深く読み解くことができるようになります。今後もプレミアリーグを観戦する際には、ぜひ選手の「ホームグROwn資格」にも注目してみてください。

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