サッカーの試合を見ていると、「セットプレイがチャンスですね」といった実況を聞いたことはありませんか?なんとなくチャンスなのはわかるけど、具体的にどういうものなのか、どんな種類があるのかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
セットプレイとは、ファウルやボールがラインの外に出たことによってプレーが一度中断し、決められた場所からプレーを再開することです。 プレーが止まった状態から始まるため、チームで準備してきた戦術やサインプレーを使いやすく、試合の流れを大きく変える力を持っています。
実際に、近年のサッカーの試合では、全ゴールのうち20%から40%近くがセットプレイから生まれているというデータもあるほどです。 この記事では、サッカー観戦がもっと面白くなる「セットプレイ」について、基本的な意味から具体的な種類、そして攻撃と守備の戦術まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。セットプレイを知れば、ゴール前の攻防や選手たちの駆け引きがより深く理解できるようになりますよ。
セットプレイとは?サッカーの基本を学ぼう

サッカーの試合は、ボールが動いている「流れの中でのプレー」だけではありません。試合が中断し、特定の場所からプレーが再開される「セットプレイ」は、試合の勝敗を左右するとても重要な要素です。 ここでは、セットプレイの基本的な意味と、なぜそれほどまでに重要視されるのかを解説します。
セットプレイの基本的な意味
セットプレイとは、プレーが一時的に中断された後、決められた位置にボールをセット(置いて)してからプレーを再開することを指します。 具体的には、ファウルがあった際のフリーキックや、ボールがゴールラインを割った際のコーナーキックなどがこれにあたります。
プレーが止まっている状態から始まるため、攻撃側も守備側もポジションを整える時間があります。 そのため、あらかじめチームで練習してきた動きや戦術を実行しやすく、得点の大きなチャンス、あるいは失点の大きなピンチになり得るのです。
「流れの中でのプレー」との違い
サッカーのプレーは、大きく分けて「流れの中でのプレー(オープンプレー)」と「セットプレイ」の2つに分類できます。この2つの最も大きな違いは、プレーが始まる状況が「動的」か「静的」かという点です。
| 項目 | 流れの中でのプレー(オープンプレー) | セットプレイ |
|---|---|---|
| 状況 | 選手もボールも常に動いている「動的」な状態 | ボールが静止した「静的」な状態から再開 |
| 予測 | 相手の動きが予測しにくく、瞬時の判断が求められる | 事前に戦術を準備し、共有しやすい |
| 再現性 | 同じ状況は二度と起こらない | 似たような状況が繰り返し発生するため、練習の成果が出やすい |
流れの中でのプレーは、常に状況が変化するため、選手のひらめきや個人技が光る場面が多く見られます。一方、セットプレイは、チームとしてどれだけ準備してきたか、その戦術の質が問われる場面と言えるでしょう。
なぜセットプレイは重要なのか?
セットプレイが重要視される理由は、大きく3つあります。
- 得点に直結しやすい 現代サッカーでは守備技術が向上し、流れの中からゴールを奪うのが難しくなっています。 そんな中、ボールをゴール前に直接送り込めるセットプレイは、非常に効率的な得点手段です。 大会によっては、総得点の3割から4割がセットプレイから生まれることもあるほど、その重要性は増しています。
- 戦術をチーム全体で共有しやすい プレーが止まるため、選手全員が落ち着いて次のプレーの意図を共有する時間があります。 キッカーの合図(サイン)に合わせて、複数の選手が連動して動く「サインプレー」や、相手の意表を突く「トリックプレー」など、デザインされた攻撃を仕掛けやすいのが特徴です。
- 試合の流れを変える力がある どれだけ劣勢な試合展開でも、セットプレイ一発で得点が決まれば、試合の雰囲気を一変させることができます。 逆に、優勢に進めていてもセットプレイから失点してしまうと、主導権を相手に渡してしまうことも少なくありません。まさに、試合のターニングポイントになりやすいプレーなのです。
英語では “Set Piece” と呼ばれることが多く、ラグビーでも使われる用語です。 「Set」には「配置する」という意味があり、ボールや選手を配置してから始めるプレー、という意味合いで使われています。
セットプレイの主な種類とルール

セットプレイにはいくつかの種類があり、それぞれ再開される条件やルールが異なります。 ここでは、サッカーの試合でよく見られる代表的な6つのセットプレイについて、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
コーナーキック(CK)
コーナーキックは、守備側の選手が最後に触ったボールが、自陣のゴールラインを越えた場合に攻撃側に与えられるセットプレイです。 フィールドの四隅にある「コーナーアーク」と呼ばれる扇形のエリアにボールを置いてキックします。
ゴールに非常に近い位置からプレーを再開できるため、得点の絶好のチャンスとなります。 キッカーはゴール前に高いボールを上げて味方のヘディングシュートを狙ったり、意表を突いて短いパス(ショートコーナー)を選択したりと、多彩な攻撃を仕掛けます。守備側は、ゴール前で体を張ってシュートを防がなければなりません。
フリーキック(FK)
フリーキックは、相手選手のファウル(反則)があった地点から、妨害を受けずにボールを蹴ってプレーを再開するセットプレイです。 フリーキックには「直接フリーキック」と「間接フリーキック」の2種類があります。
- 直接フリーキック: 蹴ったボールが直接ゴールに入っても得点が認められるフリーキックです。相手を蹴ったり、手で押したりといった比較的重い反則に対して与えられます。ゴールに近い位置からの直接フリーキックは、そのままゴールを狙えるため大きなチャンスです。
- 間接フリーキック: 蹴ったボールが、ゴールに入る前に他の誰かの選手(味方・相手問わず)に触れなければ得点にならないフリーキックです。オフサイドや、ゴールキーパーが味方からのバックパスを手で扱ってしまう、といった反則の際に与えられます。
ペナルティキック(PK)
ペナルティキックは、守備側の選手が自陣のペナルティエリア内で、直接フリーキックに該当する反則を犯した場合に攻撃側に与えられます。
ゴールから11mの距離にあるペナルティマークにボールを置き、キッカーとゴールキーパー(GK)が一対一で対峙します。 他の選手はペナルティエリアの外側、かつボールより後方にいなければなりません。攻撃側にとってはほぼ100%に近い得点チャンスであり、セットプレイの中で最も決定的な場面と言えるでしょう。
スローイン
スローインは、ボールがタッチライン(フィールドの縦のライン)を完全に越えた際に、最後にボールに触れた選手の相手チームに与えられるセットプレイです。
他のセットプレイと違い、唯一手を使ってボールをフィールド内に投げ入れます。ボールを頭の後ろから頭上を通して、両足が地面についた状態で投げなければならないという細かいルールがあります。相手ゴールに近い位置からのスローイン、特に遠くまで投げられる「ロングスロー」は、コーナーキックと同じように得点のチャンスになることがあります。
ゴールキック
ゴールキックは、攻撃側の選手が最後に触ったボールが、相手のゴールラインを越えた場合に守備側に与えられます。
自陣のゴールエリア(ゴール前の小さい四角いエリア)内にボールを置いてキックして再開します。以前はペナルティエリアの外にボールが出るまで他の選手は触れませんでしたが、ルール改正によりエリア内からでもパスを受けられるようになりました。これにより、ゴールキーパーから近いディフェンダーへパスをつないで攻撃を組み立てる戦術が増えています。
キックオフ
キックオフは、試合開始時(前半・後半)や、得点が入った後に試合を再開するために行われます。 フィールド中央のセンタースポットにボールを置いて、相手チームの選手がセンターサークルに入るのを待ってから開始されます。厳密にはこれもセットプレイの一種です。
セットプレイにおける攻撃戦術

セットプレイは、静止した状態からプレーが始まるため、攻撃側が意図したプレーを実現しやすい絶好の機会です。 各チームは得点を奪うために、様々な工夫を凝らした戦術を準備しています。ここでは、セットプレイでよく見られる代表的な攻撃戦術をいくつか紹介します。
身長を活かしたヘディング
コーナーキックやゴールに近い位置からのフリーキックで最も一般的なのが、ゴール前に精度の高いボールを送り、身長の高い選手がヘディングで合わせるという戦術です。
攻撃側のチームは、最もヘディングの強い選手(ターゲットマン)を相手のマークが手薄なスペースに走り込ませるよう、デザインされた動きをします。他の選手は、そのターゲットマンへのマークを引きつけたり、スペースを作ったりする「おとり(デコイ)」の役割を担うこともあります。 シンプルですが、キッカーのボールの質とターゲットマンの高さが噛み合えば、非常に強力な得点パターンとなります。
意表を突くショートコーナー
ゴール前に高いボールを入れると見せかけて、近くにいる味方に短いパスを出すのが「ショートコーナー」です。
相手の守備陣はゴール前で高いボールに備えているため、ショートコーナーを使うことで相手の守備陣形を崩す狙いがあります。パスを受けた選手がドリブルで仕掛けたり、角度を変えてからクロスボールを入れたりすることで、通常とは異なる形からチャンスを作り出します。相手の守備の準備が整う前に素早く行うことで、より効果を発揮します。
デザインされた多彩なフリーキック戦術
ゴール前でのフリーキックでは、直接ゴールを狙うだけでなく、チームでデザインされた多彩な戦術が用いられます。
- サインプレー: キッカーが蹴る前に特定のサイン(手を挙げる、歩数など)を出し、それを合図に選手たちが一斉に動き出すプレーです。 誰がどこに走り込むか、どのタイミングでボールを出すかをあらかじめ決めておくことで、相手のマークを外しやすくなります。
- トリックプレー: 相手の意表を突くための工夫が凝らされたプレーです。 例えば、ボールの前に複数の選手が立ち、誰が蹴るのかを分からなくさせたり、蹴るふりをして他の選手にパスを出したりします。アーセナルが見せた、複数の選手がボールの上をまたいで相手を惑わせるフリーキックなどは、トリックプレーの好例です。
ロングスローという飛び道具
スローインは手で行いますが、中にはペナルティエリア内までボールを投げ込むことができる「ロングスロー」を得意とする選手がいます。
ロングスローは、まるでコーナーキックのようにゴール前でのチャンスを創出できるため、非常に強力な攻撃オプションとなります。 相手ゴールに近いサイドでスローインを得た際には、ロングスローを投げるために専門の選手が遠くから走ってくることもあります。ボールが放物線を描いてゴール前に飛んでくるため、守備側は対応が難しいプレーの一つです。
セットプレイにおける守備戦術
攻撃側が多彩な戦術でゴールを狙ってくるセットプレイに対して、守備側も失点を防ぐために組織的な守備戦術で対抗します。ゴール前の攻防を制するためには、個人の能力だけでなく、チーム全体での約束事が非常に重要になります。ここでは、セットプレイにおける主な守備戦術を紹介します。
マンツーマンディフェンス
マンツーマンディフェンスは、その名の通り、守備側の選手一人ひとりが、攻撃側の特定の選手をマンマーク(担当としてマーク)する戦術です。
デメリット: 相手の動きに完全に付いていかなければならず、スクリーンプレー(味方選手を壁にしてマークを妨害する動き)などでマークを外されやすい。
誰がどの選手を見るのかがはっきりしているため、自分のマークする相手に集中できるのが特徴です。しかし、マークする相手にフィジカル(身長やパワー)で負けていると、そこが弱点になってしまう可能性があります。
ゾーンディフェンス
ゾーンディフェンスは、選手それぞれが特定のエリア(ゾーン)を担当し、自分のゾーンに入ってきた相手選手に対応する守備戦術です。
デメリット: 選手間の連携が悪いと、ゾーンの境界線で相手をフリーにしてしまうことがある。また、勢いよく走り込んでくる選手への対応が難しい。
人をマークするのではなく、スペースを守るという考え方です。選手同士の距離感を保ちやすく、守備ブロックを崩されにくいのが利点です。一方で、誰がボールにアタックするのかが曖昧になり、相手にボールを触られてしまうこともあります。
マンツーマンとゾーンの組み合わせ(ミックス)
現代サッカーで主流となっているのが、マンツーマンとゾーンディフェンスを組み合わせた「ミックスディフェンス」です。
例えば、特に危険なヘディングの強い相手選手にはマンツーマンで対応し、その他の選手はゾーンでゴール前の重要なスペースを埋める、といった形です。 この戦術は、マンツーマンとゾーンそれぞれの長所を活かし、短所を補い合うことができます。どの選手にマンツーマンで付かせ、どのエリアをゾーンで守るのか、チームの戦術や相手の特徴によって柔軟に使い分けられます。
壁の作り方と役割(フリーキック時)
ゴール正面など、直接シュートを狙われる可能性があるフリーキックの際には、守備側の選手が数人で壁(ウォール)を作り、シュートコースを限定させます。
壁の役割は、ゴールキーパーが守る範囲を狭めることにあります。一般的に、壁はゴールキーパーが直接見えない方のゴールポスト側を消すように作られます。ゴールキーパーは壁がない方のコースに集中して備えることができるのです。 壁を作る人数や位置は、フリーキックの場所やキッカーの利き足によって調整されます。壁を作る選手は、ボールが蹴られる瞬間にジャンプして高いシュートを防いだり、逆に飛ばずに低いシュートに備えたりと、キッカーとの駆け引きも重要になります。
セットプレイを楽しむための観戦ポイント

セットプレイの基本や戦術がわかってくると、試合観戦がさらに楽しくなります。次にセットプレイが起きたときには、ぜひ以下の3つのポイントに注目してみてください。選手たちの細かい駆け引きやチームの狙いが見えてきて、サッカーの奥深さを感じられるはずです。
キッカーは誰?その選手の特徴は?
セットプレイの成否は、キッカーのボールの質に大きく左右されます。 まずは、誰がボールをセットしているのかに注目しましょう。
その選手は、右利きでしょうか、左利きでしょうか?利き足によってボールの回転が変わり、曲がり方が異なります。 例えば、右サイドからのコーナーキックを右利きの選手が蹴る場合、ボールはゴールから遠ざかるような軌道(アウトスイング)になりやすく、左利きの選手が蹴ればゴールに向かっていく軌道(インスイング)になりやすいです。
また、その選手はスピードのある鋭いボールを蹴るタイプか、ふわりとした滞空時間の長いボールを蹴るタイプか、その特徴を知っておくと、チームがどのような攻撃を狙っているのかを予測するヒントになります。
ペナルティエリア内の選手の動き出し
キッカーがボールを蹴る直前、ペナルティエリア内では激しい駆け引きが繰り広げられています。選手たちの動き出しに注目してみましょう。
- 攻撃側の選手の動き: 選手たちは、ただやみくもにゴール前に集まっているのではありません。ニアサイド(キッカーに近い側)に走り込む選手、ファーサイド(キッカーから遠い側)に走り込む選手、一度ゴールから離れてマークを外し、空いたスペースに走り込む選手など、それぞれが役割を持って動いています。誰が「おとり」で、誰が本当の「ターゲット」なのか。その動きの意図を読み解くのが面白いポイントです。
- デザインされた動き: 時には、複数の選手が同じ方向に動いて相手の守備を偏らせ、逆サイドにできたスペースを狙うといった、チームでデザインされた動きも見られます。
守備側の陣形と対応
攻撃側の狙いに対して、守備側がどのように対応しているかを見るのも重要な観戦ポイントです。
- 守備の陣形: 相手選手を一人ずつマークするマンツーマンなのか、スペースを固めるゾーンディフェンスなのか、あるいはその両方を組み合わせたミックスなのか。守備陣形を見ることで、チームの守備戦術がわかります。
- キープレイヤーへの警戒: 守備側は、相手チームで最もセットプレイに強い選手(例えば、ヘディングが非常に強い選手)を徹底的にマークします。時には2人がかりでマークすることもあります。そのキープレイヤーとマーク役の選手の攻防は、セットプレイにおける見どころの一つです。
これらのポイントを意識することで、ボールが止まっている間の数秒間に、選手たちがいかに多くの情報をやり取りし、緻密な駆け引きを行っているかがわかり、サッカー観戦の解像度が格段に上がるはずです。
まとめ:セットプレイを知ればサッカー観戦がもっと面白くなる

この記事では、サッカーにおける「セットプレイ」について、その基本的な意味から種類、そして具体的な攻撃・守備の戦術までを詳しく解説してきました。
セットプレイは、ファウルやボールがラインの外に出たことによってプレーが止まった状態から再開されるプレーのことです。 流れの中でのプレーとは異なり、チームとして準備してきた戦術やサインプレーを発揮しやすいため、得点に直結しやすく、試合の流れを大きく左右する重要な局面となります。
- セットプレイの種類: コーナーキック、フリーキック、ペナルティキック、スローインなど、それぞれ異なるルールと特徴があります。
- 攻撃戦術: 高いボールをヘディングで合わせるシンプルなものから、ショートコーナーやトリックプレーといった相手の意表を突く多彩な戦術が存在します。
- 守備戦術: マンツーマンやゾーンディフェンス、そしてそれらを組み合わせたミックスディフェンスで、組織的にゴールを守ります。
次にサッカーを観戦する機会があれば、ぜひセットプレイの場面で「キッカーは誰か」「選手たちはどのように動いているか」「守備陣形はどうなっているか」といった点に注目してみてください。ボールが止まっている間に繰り広げられる選手たちの緻密な駆け引きや、チームの狙いを読み解くことで、これまで以上にサッカー観戦の奥深さと楽しさを感じられるはずです。



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