サッカーの試合を観戦していると、「今のプレーはドグソじゃないか?」といった解説を聞いたことはありませんか? この「ドグソ」という言葉は、試合の結果を大きく左右する可能性のある、非常に重要な反則の一つです。
具体的には、「決定的な得点の機会」を不正なプレーで阻止する行為を指し、この反則を犯した選手には原則としてレッドカード、つまり一発退場という重い罰則が科せられます。 しかし、このドグソの判定は非常に繊細で、いくつかの条件をすべて満たす必要があります。 この記事では、サッカー観戦がもっと面白くなる「ドグソ」について、その意味や適用される条件、さらには近年のルール改正まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
ドグソとは?サッカーの重要な反則行為を徹底解説
サッカーのルールの中でも、特に試合の勝敗に直結しやすいのが「ドグソ」です。まずは、この言葉の基本的な意味と、なぜ重要視されているのかについて見ていきましょう。
ドグソの正式名称と意味
ドグソ(DOGSO)とは、英語の「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の頭文字をとった略語です。
日本語に直訳すると「決定的な得点機会の阻止」となり、その名の通り、もう少しでゴールが決まったであろう決定的チャンスを、反則によって妨害する行為を指します。
- Denying:阻止する
- Obvious:明らかな、決定的な
- Goal-Scoring:得点する
- Opportunity:機会
例えば、ゴールキーパーと1対1の状況になった攻撃側の選手を、後ろからディフェンダーがわざと倒してシュートを打たせなかった、といったプレーが典型的な例です。このような行為は、サッカーの醍醐味であるゴールを不正に奪うものとして、厳しい罰則の対象となります。
なぜ「ドグソ(DOGSO)」と呼ばれるの?
「決定的な得点機会の阻止」というルール自体は以前から存在していましたが、「ドグソ」という言葉が一般的に使われるようになったのは比較的最近のことです。
このルールが注目されるようになった背景には、1980年代頃に意図的に相手のチャンスを潰すための「プロフェッショナル・ファウル」が増加したことがあります。 これを受け、1990年のイタリア・ワールドカップから決定機を阻止するファウルへの罰則が強化されました。 その後ルールが整備され、2018年には日本のサッカー競技規則にも「DOGSO」という言葉が記載されるようになりました。
さらに、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入が大きな影響を与えています。 VARによって、審判の主観だけでなく映像でプレーを詳細に確認できるようになったため、ドグソに該当するかどうかがより厳密に判断されるようになりました。 これにより、ファンやサポーターの間でも「今のプレーはドグソか?」といった議論が活発になり、言葉として広く浸透していったのです。
ドグソが適用されるとどうなる?
ドグソに該当する反則を犯した選手には、原則としてレッドカードが提示され、退場処分となります。
サッカーは11人対11人で行うスポーツなので、一人でも選手が減ることはチームにとって非常に大きな痛手です。特に試合の早い時間帯に退場者が出てしまうと、残りの時間を少ない人数で戦わなければならず、試合の行方を大きく左右することになります。
ただし、全てのドグソがレッドカードになるわけではなく、特定の状況下ではイエローカードに軽減されるケースもあります。 この点については、後の章で詳しく解説します。
ドグソは、単なるファウルとは一線を画す、非常に重い意味を持つ反則なのです。
ドグソが適用される4つの条件
あるプレーがドグソと判定されるためには、主審が以下の4つの条件をすべて満たしていると判断する必要があります。 どれか一つでも欠けている場合、ドグソは適用されません。
条件1:反則とゴールとの距離
1つ目の条件は、反則が起きた場所と相手ゴールとの距離が近いことです。
「近い」といっても、「ゴールから〇〇メートル以内」といった明確な基準はありません。 一般的にはペナルティエリア内やその付近、ゴールまで約25m以内が目安とされていますが、状況によってはそれより遠い位置でもドグソが適用されることがあります。
例えば、ハーフウェーライン付近であっても、相手ディフェンダーが誰もおらず、ゴールキーパーと1対1になれるような独走状態であれば、それを阻止するファウルはドグソと判断される可能性が高くなります。 要するに、その位置から得点を狙える現実的な可能性があったかどうかが問われるのです。
条件2:プレーの方向
2つ目の条件は、攻撃側選手のプレー全体が相手ゴールに向かっていることです。
攻撃側の選手がドリブルやボールを受けた後の動きなど、一連のプレーがゴール方向へ進んでいる必要があります。 例えば、ゴールに背を向けてボールをキープしている選手や、横パスを受けようとしている選手を倒しても、それは「決定的な得点機会」とは見なされにくいため、ドグソには該当しません。
あくまでも、ファウルがなければ、そのままゴールへ向かってシュートまで持ち込めたであろう、という流れが重要になります。
条件3:守備側競技者の位置と数
3つ目の条件は、ファウルをした選手以外に、その攻撃を防げる守備側の選手が近くにいないことです。
もし反則がなくても、すぐにカバーに入れる味方ディフェンダーが近くにいた場合、それは「決定的」な機会とは言えません。そのため、ドグソの判定にはなりません。
具体的には、攻撃側の選手とゴールキーパーだけの、いわゆる「1対1」の状況や、他にディフェンダーはいるものの、明らかにプレーに関与できない位置にいる場合などがこの条件に当てはまります。 守備側が数的不利な状況で、ファウルによって最後の砦を突破されるのを防いだ、というような場面をイメージすると分かりやすいでしょう。
条件4:ボールをキープできる、またはコントロールできる可能性
最後の条件は、攻撃側の選手がそのボールをコントロールできていた、あるいは、ファウルがなければコントロールできた可能性が高いことです。
いくらゴール前でフリーになっていても、パスが強すぎて明らかに追いつけない、トラップに失敗してボールが大きく離れてしまった、といった状況でファウルを受けてもドグソにはなりません。
これらの条件を総合的に見て、「ファウルがなければ、ほぼ間違いなく得点につながっていた」と客観的に判断できる場合にのみ、ドグソが適用されるのです。
ドグソのルール改正と「三重罰」の緩和
ドグソに関するルールは、これまで何度か議論され、改正が行われてきました。特に重要なのが、「三重罰」と呼ばれる厳しすぎる罰則が緩和された点です。
かつての「三重罰」とは?
かつて、ペナルティエリア内でドグソに該当するファウルを犯した場合、反則したチームと選手には、以下の3つの重い罰則が科されていました。これを「三重罰(さんじゅうばつ)」と呼びます。
罰則 | 内容 |
---|---|
① PK献上 | 相手チームにペナルティキックが与えられる |
② 退場 | ファウルを犯した選手はレッドカードで退場となる |
③ 次節出場停止 | 退場した選手は、次の試合に出場できない |
この三重罰は、「一つのプレーに対する罰則としては厳しすぎるのではないか」と長年議論の的となっていました。 例えば、ディフェンダーが必死にボールを奪いに行った結果、わずかに足がかかって相手を倒してしまったようなケースでも、この3つの罰が科されていたのです。
なぜルールが改正されたのか?
三重罰が問題視された最大の理由は、その過剰な罰則が試合の魅力を損なう可能性があったためです。 PKによって得点の機会は相手に与えられるにもかかわらず、さらに退場者を出して数的不利な状況で戦い、次の試合にも影響が及ぶのは、あまりにも代償が大きいという意見が多くありました。
このような世界的な議論の高まりを受け、サッカーのルールを定める国際サッカー評議会(IFAB)は、2016年にこのルールを改正しました。
この改正のポイントは、ファウルが「ボールにプレーしようとした結果」なのか、それとも「意図的・悪質なもの」なのかを区別するようになった点です。 これにより、選手のプレーの意図を汲み取り、より妥当な判定を下すことを目指したのです。
ペナルティーエリア内でのドグソの判定基準(イエローカードになる場合)
このルール改正により、ペナルティエリア内でドグソが発生した場合の判定が以下のように変わりました。
【イエローカード(警告)になるケース】
ペナルティエリア内で、守備側選手がボールに対して正当にチャレンジしようとした結果としてファウルになってしまった場合。
この場合、相手チームにPKが与えられることは変わりませんが、ファウルを犯した選手へのカードはレッドカードではなくイエローカードに軽減されます。 これにより、「退場」と「次節出場停止」という罰則が回避され、三重罰ではなくなります。
【レッドカード(退場)になるケース】
一方で、以下のようなケースでは、これまで通りレッドカードが提示され、三重罰が適用されます。
- 相手選手を意図的に押したり、引っ張ったり、手で止めたりする行為(ホールディングなど)
- 明らかにボールではなく、相手選手を狙った悪質なタックル
- 決定的なシュートを手や腕を使って阻止する行為(ハンドリング)
つまり、ボールを奪う意思のないプレーや、スポーツマンシップに反する行為に対しては、引き続き厳しい処分が下されるということです。
実際の試合で見るドグソの具体例
ドグソのルールを理解するために、実際の試合で起こりうる具体的なシーンをいくつか見ていきましょう。これらの例を通じて、4つの条件がどのように適用されるかをイメージしてみてください。
ディフェンダーが攻撃選手を後ろから倒すケース
最も典型的で分かりやすいドグソの例です。
状況:
カウンター攻撃で、一人の攻撃選手がディフェンスラインの裏へ抜け出しました。ゴールキーパーと1対1の状況になり、ペナルティエリアに差し掛かったところで、必死に追いかけてきた最後のディフェンダーが後ろからタックルをして転倒させました。
判定のポイント:
- 距離:ゴールまで近く、絶好の得点機会です。
- 方向:攻撃選手はまっすぐゴールに向かっていました。
- 守備者の数:後ろから倒したディフェンダー以外に、カバーできる選手はいませんでした。
- ボールのコントロール:攻撃選手はボールをコントロールし、まさにシュートを打とうとしていました。
この場合、4つの条件をすべて満たすため、ドグソと判定され、ファウルを犯したディフェンダーにはレッドカードが提示される可能性が非常に高いです。
ゴールキーパーが飛び出して攻撃選手を倒すケース
ゴールキーパーのプレーによってドグソが適用されることも少なくありません。
状況:
スルーパスに抜け出した攻撃選手が、ペナルティエリアの外に飛び出してきたゴールキーパーをもかわそうとしました。完全に抜き去られると感じたゴールキーパーが、たまらず手や足を使って攻撃選手を倒してしまいました。
判定のポイント:
この場合も、ゴールはがら空きになっており、他のディフェンダーが戻るのが間に合わない状況であれば、4つの条件を満たすことになります。ペナルティエリアの外でのファウルのため、相手チームには直接フリーキックが与えられ、ゴールキーパーは一発退場となります。チームは控えのゴールキーパーを投入するために、フィールドプレーヤーを一人交代させなければなりません。
ハンドで決定的なシュートを阻止するケース
フィールドプレーヤーが意図的に手や腕を使ってゴールを守る行為も、ドグソの一種と見なされます。
状況:
コーナーキックからのこぼれ球を、攻撃側の選手がゴールに向かってシュートを打ちました。ゴールキーパーは逆を取られて反応できず、ゴールは確実かと思われました。しかし、ゴールライン上にいたディフェンダーが、とっさに手を出してシュートをブロックしてしまいました。
判定のポイント:
これは、意図的なハンドリングによって決定的な得点を阻止したと見なされます。 たとえペナルティエリア内であっても、ボールにプレーしようとする行為ではないため、ルール改正による軽減措置は適用されません。 その結果、相手チームにPKが与えられるとともに、ハンドをした選手にはレッドカードが提示され、三重罰となります。
ドグソの判定はなぜ難しい?VARの役割
ドグソは試合を大きく左右する重要なルールですが、その判定は非常に難しく、しばしば議論を巻き起こします。ここでは、判定の難しさと、現代サッカーに欠かせないVARの役割について解説します。
審判の主観が入りやすい「4つの条件」
ドグソの適用には4つの条件をすべて満たす必要がありますが、これらの条件の解釈には、どうしても審判の主観が入り込む余地があります。
例えば、「ボールをコントロールできる可能性があったか」という判断は、選手の能力やボールの状況によって見方が変わります。また、「他のディフェンダーがカバーできたか」というのも、選手の走るスピードや距離感など、瞬時に客観的な事実だけで判断するのは困難です。
このように、ドグソの判定は白か黒かではっきりと分けられないグレーな部分が多く存在するため、審判にとっては非常にプレッシャーのかかる難しいジャッジの一つとなっています。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による判定介入
こうした判定の難しさを補助し、より公平なジャッジを実現するために導入されたのがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)です。
VARは、別の場所で試合映像をチェックする審判団のことで、主審の判定に「明白な間違い」があった可能性がある場合に介入します。ドグソに関連するプレーは、VARが介入できる対象の一つです。
例えば、主審がドグソを見逃してしまった場合や、逆にドグソではないプレーにレッドカードを提示してしまった場合に、VARから主審にレビューを進言することができます。主審はピッチ脇のモニターで映像を再確認し(オンフィールド・レビュー)、最終的な判定を下します。
VARの導入により、以前よりもドグソの判定精度は向上しましたが、それでもなお、最終的な判断は主審に委ねられており、議論が完全になくなるわけではありません。
ドグソを巡る議論と今後の展望
ドグソ、特に三重罰の緩和については、サッカー界で今もなお議論が続いています。
三重罰の緩和は、選手のプレーの意図を尊重するポジティブなルール改正と評価される一方で、「ペナルティエリア内ならイエローカード覚悟でファウルをした方が得だ」という考え(いわゆる戦術的ファウル)を助長するのではないか、という懸念の声もあります。
サッカーのルールは、試合をよりエキサイティングで公平なものにするために、時代と共に変化し続けています。ドグソに関するルールも、今後さらに議論が重ねられ、より良い形に変わっていく可能性があります。ファンとしてルールの変遷を見守るのも、サッカーの楽しみ方の一つと言えるでしょう。
まとめ:ドグソを理解してサッカー観戦をもっと楽しもう
この記事では、サッカーの重要な反則である「ドグソ」について詳しく解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ってみましょう。
- ドグソとは「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の略で、日本語では「決定的な得点機会の阻止」を意味します。
- 原則としてレッドカード(一発退場)が提示される、非常に重い反則です。
- 適用されるには「距離」「方向」「守備者の数」「ボールのコントロール」という4つの条件をすべて満たす必要があります。
- かつては「PK献上・退場・次節出場停止」の三重罰が問題視されていました。
- 現在はルールが改正され、ペナルティエリア内でボールにチャレンジした結果のファウルは、イエローカードに軽減されることがあります。
ドグソのルールを理解すると、「なぜ今レッドカードが出たのか?」「あのファウルは退場になるほど悪質だったのか?」といった疑問が解消され、審判の判定の意図がより深く理解できるようになります。 また、VARが介入した際に、何が議論されているのかが分かり、試合観戦がさらに面白くなるはずです。
ぜひ、次のサッカー観戦では、決定的なチャンスの場面で「これはドグソになるか?」という視点を持って、スリリングな攻防を楽しんでみてください。
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