Jリーグに興味を持ち始めると、「オリジナル10」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。「それって、どういう意味?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。オリジナル10とは、1993年に開幕したJリーグに、発足当初から参加していた記念すべき10クラブのことです。
日本のサッカーがプロリーグとして大きな一歩を踏み出した、その瞬間に立ち会ったクラブたちと言えるでしょう。この記事では、Jリーグの歴史の礎を築いたオリジナル10について、その誕生の経緯から各クラブの栄光の軌跡、そして現在の姿まで、サッカー初心者の方にも分かりやすく、そして詳しく解説していきます。
オリジナル10を知ることは、Jリーグの歴史そのものを知ることであり、今後のサッカー観戦がより一層楽しくなること間違いなしです。
オリジナル10とは?Jリーグ創設時の英雄たち
1993年5月15日、日本のサッカー界に新たな歴史が刻まれました。プロサッカーリーグ「Jリーグ」の開幕です。この記念すべきスタートを切った10のクラブが「オリジナル10」と呼ばれています。 彼らは、アマチュアが主流だった時代からプロの世界へと、日本のサッカーを大きく飛躍させる原動力となりました。
Jリーグ開幕!オリジナル10の誕生秘話
Jリーグの開幕前、参加クラブの選定は当初8クラブで行われる予定でした。 しかし、当時のバブル景気や企業の社会貢献への関心の高まりを背景に、加盟を希望する団体が20にも上ったのです。 この熱意を受け、初代Jリーグチェアマンの川淵三郎氏をはじめとする準備メンバーは、初年度の参加クラブを10に広げることを決定しました。 この決定が、のちに「オリジナル10」として語り継がれるクラブたちの誕生につながりました。
選定にあたっては、単に強いチームというだけでなく、「地域密着」というJリーグの理念に沿っているかどうかも重要なポイントでした。特定の企業のためだけでなく、その地域の人々から愛され、応援されるクラブであることが求められたのです。
母体となった日本サッカーリーグ(JSL)
オリジナル10のクラブの多くは、Jリーグの前身である日本サッカーリーグ(JSL)に所属していたチームが母体となっています。 JSLは1965年から1992年まで続いた社会人サッカーの全国リーグで、当時の日本のトップリーグでした。 オリジナル10のうち、清水エスパルスを除く9クラブはJSLに所属しており、その中でも鹿島アントラーズの前身である住友金属工業蹴球団を除く8クラブは、トップカテゴリーであるJSL1部に所属していた実力のあるチームでした。 JSL時代のライバル関係や選手たちの物語が、そのままJリーグの舞台に引き継がれ、開幕当初のリーグを大いに盛り上げたのです。
10クラブの選定基準とプロ化への道
Jリーグに参加するためには、厳しい基準をクリアする必要がありました。 主な参加要件には、以下のようなものがありました。
- クラブの法人化
- ホームタウンの確立
- 1万5000人以上収容可能なナイター設備付きの競技場の確保
- 18人以上のプロ選手との契約
- 下部組織(ユースチームなど)の運営
これらは、企業の一部活動であった「実業団チーム」から、独立したプロの「クラブチーム」へと生まれ変わるための重要な条件でした。特に「ホームタウンの確立」は、企業名ではなく地域名を名乗ることを意味し、地域に根差したスポーツ文化を育むというJリーグの大きな理念の表れでした。 これらの高いハードルを乗り越えた20の団体から、地域バランスなども考慮された上で、最終的に10クラブが選ばれ、日本のプロサッカーの歴史が始まったのです。
オリジナル10のクラブ一覧と現在の所属
日本のプロサッカーリーグの幕開けを飾ったオリジナル10。 ここでは、その10クラブを発足当時の名称と現在の名称、そして2025年シーズン開幕時点での所属カテゴリーと合わせてご紹介します。時代と共にクラブ名や所属リーグは変わりましたが、彼らがJリーグの歴史を築いてきた事実に変わりはありません。
発足時のクラブ名 | 現在のクラブ名 | 2025年シーズンの所属(予定) |
---|---|---|
鹿島アントラーズ | 鹿島アントラーズ | J1 |
ジェフユナイテッド市原 | ジェフユナイテッド市原・千葉 | J2 |
浦和レッドダイヤモンズ | 浦和レッズ | J1 |
ヴェルディ川崎 | 東京ヴェルディ | J1 |
横浜マリノス | 横浜F・マリノス | J1 |
横浜フリューゲルス | (消滅) | – |
清水エスパルス | 清水エスパルス | J2 |
名古屋グランパスエイト | 名古屋グランパス | J1 |
ガンバ大阪 | ガンバ大阪 | J1 |
サンフレッチェ広島 | サンフレッチェ広島 | J1 |
関東のクラブ(鹿島、浦和、千葉、東京V、横浜FM)
関東地区からは最多の5クラブがオリジナル10として選ばれました。
- 鹿島アントラーズ: 茨城県鹿嶋市などをホームタウンとするクラブ。 前身は住友金属工業蹴球団です。 Jリーグ最多となる8度のリーグ優勝を誇るなど、Jリーグを代表する常勝軍団として知られています。
- 浦和レッズ(旧:浦和レッドダイヤモンズ): 埼玉県さいたま市をホームタウンとするクラブ。 熱狂的なサポーターが多く、ホームゲームの観客動員数はJリーグ屈指です。
- ジェフユナイテッド市原・千葉(旧:ジェフユナイテッド市原): 千葉県市原市、千葉市をホームタウンとしています。 前身は古河電気工業サッカー部。 2009年にJ2へ降格して以降、J1復帰を目指して奮闘を続けています。
- 東京ヴェルディ(旧:ヴェルディ川崎): 東京都をホームタウンとするクラブ。 Jリーグ開幕当初は三浦知良選手やラモス瑠偉選手などを擁し、黄金時代を築きました。
- 横浜F・マリノス(旧:横浜マリノス): 神奈川県横浜市などをホームタウンとしています。 後述する横浜フリューゲルスと1999年に合併し、現在のクラブ名になりました。
東海のクラブ(清水、名古屋)
東海地区からは、サッカーどころ静岡と大都市名古屋のクラブが参加しました。
- 清水エスパルス: 静岡県静岡市をホームタウンとするクラブ。オリジナル10の中で唯一、企業チームを母体としない「市民クラブ」として誕生しました。 サッカー王国・静岡の象徴的な存在です。
- 名古屋グランパス(旧:名古屋グランパスエイト): 愛知県名古屋市などをホームタウンとしています。 元イングランド代表のリネカー選手や、のちに監督としてクラブをリーグ初優勝に導いたストイコビッチ選手など、世界的なスターが在籍したことでも知られています。
関西・中国のクラブ(G大阪、広島)
西日本からは、関西と中国地方を代表する2クラブが名を連ねました。
- ガンバ大阪: 大阪府の北摂7市をホームタウンとするクラブです。 2014年にはJ2からの昇格1年目で国内三冠(J1リーグ、Jリーグカップ、天皇杯)を達成するという快挙を成し遂げました。
- サンフレッチェ広島: 広島県広島市をホームタウンとしています。 育成組織の評価が非常に高く、多くの日本代表選手を輩出してきました。2012年、2013年にはリーグ連覇を達成しています。
消滅したクラブ・横浜フリューゲルス
オリジナル10の中で、現在Jリーグに参加していない唯一のクラブが横浜フリューゲルスです。 当時、横浜市をホームタウンとするクラブは横浜マリノスと横浜フリューゲルスの2つありました。しかし、1998年にフリューゲルスのメインスポンサーであった佐藤工業が経営難を理由に撤退。 もう一方のスポンサーである全日空も単独でのクラブ運営は困難と判断し、横浜マリノスへの吸収合併という形で、クラブの歴史に幕を閉じることになりました。
この突然の合併発表は、選手やサポーターに大きな衝撃を与えました。 しかし、フリューゲルスはクラブ消滅が決まった後の第78回天皇杯で、奇跡の快進撃を見せます。負ければクラブが即消滅という状況の中、決勝まで勝ち進み、見事に優勝を果たしました。 この劇的な最後の戦いぶりは、「消える翼」の伝説として、今もなお多くのサッカーファンの心に刻まれています。
オリジナル10の栄光と軌跡
Jリーグの歴史と共に歩んできたオリジナル10は、数々の栄光を掴み、また時には厳しい現実にも直面してきました。ここでは、彼らがリーグの歴史に刻んだ輝かしい功績や、知られざる軌跡を辿ります。
リーグ優勝を果たしたクラブ
Jリーグの頂点であるリーグ優勝は、すべてのクラブが目指す最大の栄誉です。オリジナル10の中から、これまでにJ1リーグを制したクラブは以下の通りです。(2024シーズン終了時点)
- 鹿島アントラーズ:8回
- 横浜F・マリノス:5回
- サンフレッチェ広島:3回
- 東京ヴェルディ:2回
- ガンバ大阪:2回
- 浦和レッズ:1回
- 名古屋グランパス:1回
Jリーグ創設から2019シーズンまでの27シーズンのうち、21回の優勝がオリジナル10のクラブによるものであり、リーグの歴史において彼らがいかに支配的な存在であったかが分かります。
降格を経験していない唯一無二の存在
1999年からJリーグに2部制(J1・J2)が導入され、昇格・降格制度が始まりました。 これにより、リーグ内の競争はさらに激化しました。オリジナル10のクラブもその例外ではなく、横浜フリューゲルスが消滅した後の9クラブのうち、7クラブがJ2への降格を経験しています。
そんな厳しいプロの世界で、一度もJ2への降格を経験していないオリジナル10のクラブは、鹿島アントラーズと横浜F・マリノスの2クラブのみです。 開幕から30年以上、常にトップリーグに在籍し続けているこの2クラブは、まさにJリーグの「生き字引」と言える存在です。安定したクラブ経営と揺るぎない実力で、その地位を確固たるものにしています。
各クラブが持つ輝かしいタイトル
リーグ優勝以外にも、Jリーグには「JリーグYBCルヴァンカップ(旧ヤマザキナビスコカップ)」と「天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会」という、国内の主要なカップ戦があります。これらを含めた国内三大タイトルの獲得数を見ても、オリジナル10の強さが際立っています。
また、サンフレッチェ広島は2012年と2013年にリーグ連覇を達成しており、これはJリーグの歴史の中でも数クラブしか成し遂げていない偉業です。 一方で、ジェフユナイテッド市原・千葉や清水エスパルスのように、カップ戦のタイトルは獲得しているものの、まだリーグ優勝の経験がないクラブもあります。 それぞれのクラブが、リーグ戦、カップ戦の舞台で独自の歴史と数々のドラマを紡いできたのです。
オリジナル10がJリーグに与えた影響
オリジナル10は、単にJリーグ開幕時のメンバーというだけでなく、その後の日本サッカーの発展に計り知れない影響を与えてきました。彼らの存在なくして、現在のJリーグの姿はなかったと言っても過言ではありません。
日本サッカーのプロ化を牽引
オリジナル10の誕生は、日本のサッカーがアマチュアからプロへと本格的に移行する大きな転換点でした。それまでの選手たちは、企業の社員として働きながらサッカーをするのが一般的でしたが、プロ化によってサッカーに専念できる環境が整いました。これにより、選手の技術レベルは飛躍的に向上しました。 また、プロリーグができたことで、海外からジーコ(鹿島)やラモス瑠偉(V川崎)といった世界的なスーパースターが参戦し、プレーの質を高めると同時に、大きな注目を集めました。 彼らの華麗なプレーは多くのファンを魅了し、1993年には「Jリーグ」という言葉が新語・流行語大賞に選ばれるほどの社会現象を巻き起こしたのです。
地域密着という理念の確立
Jリーグが掲げた最も重要な理念の一つが「地域密着」です。企業名ではなく、ホームタウンの地域名をクラブ名に入れることを義務付けたのは、その象徴でした。オリジナル10の各クラブは、サッカースクールや地域のイベントへの参加などを通じて、それぞれのホームタウンに根差した活動を地道に行ってきました。 これにより、人々は「会社」のチームではなく、「自分たちの街」のクラブとして応援するようになりました。スタジアムに家族で足を運び、地元のクラブを応援するという文化は、オリジナル10が築き上げた功績の一つです。この理念は現在のJリーグにも受け継がれ、今では全国に60のクラブが存在するまでに拡大しました。
数々の名勝負とスター選手の誕生
オリジナル10のクラブは、Jリーグの歴史に残る数々の名勝負を繰り広げてきました。特に、ヴェルディ川崎と横浜マリノスの対戦や、鹿島アントラーズとジュビロ磐田(オリジナル10ではないが、初期のJリーグを牽引した強豪)のライバル対決は、多くのファンの記憶に深く刻まれています。 こうした激しい戦いの中から、三浦知良選手(V川崎)、中山雅史選手(ジュビロ磐田)、井原正巳選手(横浜マリノス)といった、日本サッカーを代表する多くのスター選手が誕生しました。彼らの活躍は、子どもたちに夢を与え、サッカー少年を増加させ、日本代表の強化にも大きく貢献したのです。オリジナル10は、日本サッカー界全体のレベルアップと人気拡大の礎を築いた、かけがえのない存在と言えるでしょう。
まとめ:オリジナル10の歴史を知り、Jリーグをもっと楽しもう
この記事では、Jリーグ発足時に加盟した記念すべき10クラブ「オリジナル10」について、その誕生の背景から各クラブの紹介、そして彼らが日本サッカー界に与えた影響までを詳しく解説しました。
- オリジナル10とは、1993年のJリーグ開幕時に参加した10クラブのこと。
- メンバーは鹿島、市原(現千葉)、浦和、V川崎(現東京V)、横浜M(現横浜FM)、横浜F、清水、名古屋、G大阪、広島。
- 横浜フリューゲルスは1999年に横浜マリノスと合併し消滅したため、現存するのは9クラブ。
- 鹿島アントラーズと横浜F・マリノスは、一度もJ2へ降格したことがない。
- 彼らはJリーグのプロ化と地域密着の理念を牽引し、日本サッカー発展の礎を築いた。
オリジナル10のクラブは、Jリーグの黎明期を支え、数々のドラマを生み出してきました。現在もJ1のトップで戦い続けるクラブもあれば、J2でJ1復帰を目指し奮闘するクラブもあります。それぞれのクラブが歩んできた30年以上の歴史を知ることで、一つ一つの試合に込められた物語や、サポーターの想いがより深く感じられるはずです。ぜひ、これを機にオリジナル10のクラブに注目し、Jリーグ観戦をさらに楽しんでみてください。
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